INAX住宅産業フォーラム INAXE´tE´HA°[E´a^E´A¨E´VE´a¨A°[E´Y
FORUM No.01 (2006.6.19)

野辺公一
市場における工務店という存在──地域マスター工務店登録運動の軌跡

LECTURE03

需要の二極化傾向

一方で戸建て住宅のグレードを見ると、坪単価が65万以上を松、45万から60万未満を竹、45万未満は梅とすると、言われているほどローコストのマーケットは大きくないことがわかります。もうひとつは、例えば車なら軽自動車が一番多く売れるように、安いものが一番厚くなり、普通の産業だと必ずピラミッド型になりますが、住宅マーケットは菱形のマーケットになっていて、注文住宅も竹のゾーンが太っている。ところが最近竹がやせほそっている。つまりローコストが若干増え、同時に松が増えているというように二極化が進行しつつあります[fig.3-01]

fig.3-01

30代顧客の争奪戦という事情

このような傾向のなかで、団塊ジュニアの30代の顧客が市場の46.5パーセントを担っています。この顧客たちにどう対応するのかが、工務店、ハウスメーカーの課題です。ローコストを謳う住宅ビルダーの増加はここにも関係があります。アパート家賃並派とも呼んでいますが、まずコスト優先。でも家が欲しいという層が相当に含まれています。パワービルダーは、この層によって成長しているわけです[fig.3-02]

fig.3-02

市場の2008年問題とは何か

もうひとつマーケットの問題があります。2008年問題と言われていますが、平成に入ってから住宅がピークを迎えたのが平成8年で、163万戸です。前年に阪神・淡路大震災があり、その時の反動で増えたのかというそうではなく、復興需要というより消費税が一番の理由です。実は消費税は平成元年に発令されましたが、この時はバブル崩壊以前でしたので、消費税はあまり大きな影響を与えなかった。その後バブルが崩壊し、土地神話も崩壊します。そのときに初めて消費税の大きさに気づくのです。平成9年に消費税を5%にするというアナウンスが平成8年にされました。この時に駆け込み需要がおこり、前年比で110%となります。消費税が成立すると消費がどんと落ち、ピークの163戸から130万戸、つまり20パーセント近く市場が縮小します。もっと激しく市場が縮小したのが持家です。いわゆる注文住宅の世界で、これは30パーセント縮小しました。以後、持家においては50万戸を上回る時代は訪れず、このまま縮小し続けると思います。唯一変わらない部分はマンション、戸建てを含めた分譲住宅です。ここはほとんど落ち込みがなく、30万戸から35万戸の水準を保っている。新聞などでは2008年に消費税を導入するような論調が出てきています。
2008年、あるいは2009年になるかもしれませんが、いずれにしろ消費税は増税されると思います。もし7パーセントになる、その時に駆け込み需要というのはあるので、最後の徒花として戸建持家が40万戸くらに増えるのではないか。それからまた落ちて30万戸になる。全体で107万戸くらいになるだろう。そして消費税が12パーセントくらいになると一気に100万戸を切ると思います。もともと2011年以降はこのくらいの規模になるという予測はずっとあるわけで、それが単に早まるだけですが、市場の縮小は思った以上に早く動き、そのなかで工務店の存在が問われてくるわけです。
バブルの崩壊する90年代までは、元請け大工および工務店数はおよそ10万程度でした。つまり全国3300市町村で考えると、1市町村におよそ30の元請大工や工務店が存在していたわけです。しかし、現在は元請け機能を保持する元請け大工・工務店はその後の市場縮小および事業継続者の不在等により約4万以下に減少し、1市町村に12の元請け大工・工務店しか存在しなくなっています。今後、住宅減税の廃止、消費税増税、ローン金利上昇という打撃が加わると、市場の縮小は一気に進行します。また、そうした市場に魅力を感じない工務店後継者も増加し、後継者不在に拍車がかかり、廃業する工務店も増える。そうした経緯から1市町村で6(商圏エリアでは約65)へと激減していくと思います。もちろん工務店だけが減るのではなく、大手や中規模ビルダーのほうがもっと危険水位に入ると思います。

まちから工務店が消えている

工務店の現状を見ると、まちから工務店が消えています[fig.3-03]。工務店の仕事は家をつくることが半分で、残りは家を守ることです。リノべーション・フォーラム第11回で「家守型まち再生の試み」というテーマがありましたが、これは大家のことで、工務店が家を守ることを「家守(いえまも)り」と言っています。工務店の仕事の半分はストック管理です。この「家守り」の役割を担う工務店が減少すると、住まい手への不利益が拡大していくという危機感をもっています。例えば悪徳リフォームが存在するのは、工務店が地域から消えた部分が関係します。つまり、家守り工務店(管理工務店)がいない住まい手がどんどん増加している。そこが実はリフォーム屋さんたちの棲息地帯になっています。  だからこそ工務店とは何か、ということ。地域に存在し、必要とされる業態とは何か、ということを住まい手とともに共有化する必要が生まれてきたわけです。 しかし、住まい手からは工務店が見えなくなっている。そうした意味から、工務店存在をもう一度住まい手にアピールする必要があるわけです。

fig.3-03

WEBにのれんを

そこで「webにのれん」をという狙いからマスター工務店運動を始めました[fig.3-04]。当初は「せめてホームページくらいを持ちましょう」という時代だったのですが、webが圧倒的に進展していて、ホームページを持たないほうがおかしいという時代になりました。まず考えたのはwebの活用で対称性世界を構築できないかということで、同じような枠組みで情報を開示することによって、工務店の存在を対称化させていこうと考えました。対称性を構築する方向性で考えたのですが、工務店にとっては、こうやって情報開示をしている工務店、ということで、むしろ非対称性を強調するという形を望んでいる部分もあり非常にパラドキシカルになっていくわけです。
工務店のwebの環境も非常に変化していきました。例えば、フェイスシートと呼んでいますが、工務店の概要をプリントアウトするとA4で1頁の自社のカタログになるというスタイルも考えました。自社ホームページを持っていない工務店にも対応するためだったわけです。
しかし、この3年間でwebを巡る環境は大きく変化しましたし、それらを駆使する工務店とそうでない工務店とに格差も生まれるようになってきました。さらにブログなども発信ツールとして存在しています[fig.3-05]
いまや、マスター工務店のホームページは、ある意味での工務店選びのポータルサイトに近い使われ方へと変化してきた、と思います。

fig.3-04

fig.3-05

では、どのような情報開示を求めているのか、を説明します。
情報開示ページにはまず会社概要。次いで自社の特徴ということでまずはお客様へのメッセージ、ホームページの有無、顧客と交流イベントをもっているかどうか、現場見学会はどういう形でやっているか、また施工実績では年間どのくらいつくり、どの程度の受注価格帯かなどを掲載し、あとは代表作を並べています。
しかし、今考えているのは施工実績の掲載はやめようと思っています。住まい手は、その工務店が2戸だろうと2万戸だろうと規模性を重視しているとは思えないからです。これらの情報は見ていないことに気がついたのです。これを見ているのはむしろ登録していないライバル工務店などだからです。その結果マスター工務店登録をやめたいという工務店が結構出てきました。続いて性能表示、標準等級がどの程度なのか、それから引き渡し後のサポートについてです。定期点検、実施期間、検査頻度、点検情報の保存、住まい手への情報の開示、住まい手からのサポート要請への対応の仕方、品質の向上策、ハウスクリーニング、メンテナンスなどについて細かく書いてあります。それから技術蓄積としてどのような講習会に参加しているのか、それから人材育成として大工を何人育てたか、現場監督はどうなのかや従業員の主な資格や環境対策についても書いています。またリスクヘッジということで瑕疵保証保険関係では何に入っているかもきいています。最大のミソは、推薦状をOB施主から必ずもらうことで、2人の施主から推薦状が登録の必須条件としています。これがないと受け付けません。僕らは工務店の最低条件としてこれだけのことが必要だと思ったのですが、これは最高条件でがないかという意見もあり、なかなか難しい。これだけのことを書けるのはなかなかの工務店だということがわかってきました。
ですから、たまに地域の工務店に登録を勧めると「敷居が高いです」と言われてしまったりしています。難しいですね。

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