INAX住宅産業フォーラム INAXE´tE´HA°[E´a^E´A¨E´VE´a¨A°[E´Y
FORUM No.01 (2006.6.19)

野辺公一
市場における工務店という存在──地域マスター工務店登録運動の軌跡

LECTURE04

web大賞と住宅考房

webでやっているのだから、登録工務店といった枠組みを外して、工務店web大賞をやろうとして昨年から工務店web大賞とブログ大賞というのをやっています。
これは自薦、他薦も含めてホームページ上で呼びかけています。もちろん、マスター工務店の各社のホームページやブログは自動的にノミネートしています。できればアカデミー賞のようにやりたいと考えています。
ここでも選考項目があり、まずポリシーが明確になっているか、住宅の特徴が明記されているか、それから保守、点検、健康、環境配慮、技術管理、人材育成、顧客対応、新着情報、ページ構成が巧みで閲覧しやすいかなどの点です。
ブログでは、読みやすさ、親しみ、写真をうまく使っているか、更新頻度などをチェック、評価しています。
web大賞には自薦、他薦で100以上の応募があり、それをチェックするのが内のスタッフで、3人がかりで気が遠くなるような作業です。今回web大賞を受賞したのは阿部建設という名古屋の工務店ですが、このホームページは専門の代理店の制作です。その代理店さんが一番喜んだようで、「web大賞をとりました」といって営業して歩いているそうです(笑)。それから単行本やニュースマガジン「住宅考房」を出していて、4月までは表紙写真は東京大学大学院工学系研究科教授の坂本功先生にやっていただきました。
また、実はマスター工務店運動の活動は、全て連絡会議で決定されます。連絡会議は議長は藤澤好一先生(芝浦工業大学名誉教授)にやっていただいていいます。
この連絡会議は、基本的に情報開示を進める運動ですから、会議自体も開いていないと駄目だ、ということで信頼できる業界専門誌記者さんたちもメンバーになっていただいています。会議は一切密室ではやらず、議論をオープンにしています。

工務店は第3世代へと移行

こうした活動をしていると、工務店の世代がずいぶん変わってきたことを実感しています[fig.4-01]。第一世代が技能中心型工務店で、第二世代が高気密、高断熱のような技術を駆使した技術中心型工務店だったわけです。第三世代はそうした技能や技術を住まい手にどのような形で価値として表出していくのか、ということを持った工務店ということになります。住まい手が納得する形に表出する力──僕はそれを「知術」と呼んでいますが──をもつ「知術型工務店」です。このタイプはweb対応を進化させています。この話を工務店にすると納得していただいて、この知術をどう深めるのかという議論しているところです。

fig.4-01

地域食材製造業者たちの宣言

このようなことを考えているのはわれわれだけではなく、地域食材製造業者たちも「良い食品づくりの会」というグループつくっています[fig.4-02]。これは徹底した地場食品で、スローフード運動よりも日本的でいいですね。よい食品の条件として「なにより安全」「おいしい」「適正な価格」「ごまかしがない」を挙げ、よい食品づくりの4原則として「良い原料」「清潔な工場」「優秀な技術」「経営者の良心」を掲げています。たまたま金沢に宮田さんという加賀麸の会社があるのですが、その工場でお麩を食べさせてもらったらすごくおいしくて、このような会があることを教えてもらいました。

fig.4-02

今後は「いてくれた」という喜びを顧客に与えられる時代にも

今後は、現実には仕事を引き受けられない廃業を決めた工務店や高齢の元請け大工が増加してきます[fig.4-03]。団塊世代の親の時代に建てた工務店に電話すると繋がらないことが圧倒的に多くなってきています。僕らのところにも30代の人たちが住宅を建てたいと相談に来ます。工務店に建ててもらいたいのかなと思うと違って、すでに大手に決めていて、そのなかから選んでもらいたいと言う。親が建てた頃の大工のところに行くともう仕事はしていないからというのがその理由です。
最近は、家電店も生き残りのための生活支援を始め、電球の取り替えなどのサービスを行なっています。それと同じように、暮らし方に向き合う仕事が地域工務店の仕事となる、つまり家をつくるというより家を守る、生活を守るという支援ソフトをどういう形で他の地域資源と連関性をもちながら展開していくかが大事になっていくと思います。例えば、シャッター通りと化した中心市街地を福祉セクターと組んでデイサービスやそこでの生産品を販売するショップを開いたり、そのようなやり方でリフォームの仕事を取りながら、家を守り、まちを守るという支援をしていくという展開が工務店としては考えられます。

fig.4-03

社会的な存在としての工務店

先程、工務店が減った部分がリフォーム市場なんだ、というお話をしましたが、管理工務店不在のため起きる災害時の応急復旧などは社会的問題でもあります[fig.4-04]。ですから僕らは工務店の社会的存在性、可能性をもっと広げようと考え、マスター工務店に関わったと言えます。 工務店のビジネスは、基本的には職業的な関係性を顧客とどう築くかということです。元請けの大工・工務店には2つのプロセスがあって、家づくりのプロセスはある意味で医療的な専門性で、管理工務店のプロセスは介護的な専門性です。その2つのプロセスを工務店はもっているわけで、求められるマーケットに応じて、医療的な専門性が大きかった時代から、今後は介護的専門性が求められる時代になっています。新築ゼロでも工務店はどうやって存在するのかという時代に入っています[fig.4-05]。 そうした中でも工務店というものの存在は「地域に必要とされる」存在でありつづける、そんな地平をきちんと見出したいな、と考えています。

fig.4-04

fig.4-05

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