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FORUM No.06(2007.3.19)

松村秀一
「200年住宅」と住宅産業の未来

SESSION03

コーディネーターとしての建築家

松井──建築家の世界もそうだと思うのですが、職人や芸術家は、組織的な協業をあまり考えない人たちが多い。それが個性をつくり出したり価値を生み出してきたのでしょうが、やはりビジネスというのはシステムで、組織がシステムとして対応していくと考えられます。そうすると一方で小回りが効くシステムがよいという考え方もありますが、ある程度の規模の産業を構成するためには大規模な組織やシステム──必ずしも会社という組織である必要はないのですが──の仕組みがどうつくられるのかと考えるわけです。面白いと思ったのが、先ほど松村先生が言われた、杖歩行になった方がバリアフリーの家にリフォームをしたいと言ったとき、もしかしたらヘルパーさんを一人雇えばよいということで、まさに松村先生はマーケティング学者だと思いました。マーケティングに「1/4インチのドリル」という有名な話があるのですが、1/4インチのドリルを買いたい人はドリルを欲しがっているのではなくて1/4インチの穴を欲しがっているということです。本質的なサービスを提供するためには必ずしもドリルでなくてよいわけです。ただ、ドリルをつくっている会社が穴を提供する、つまり真なるニーズに対応しようとしたときにその会社が持っている技術はドリルをつくる技術です。背後に技術があって、その技術に基づいてニーズを実現する。この技術について考えたときに、例えば工務店がヘルパーを雇うのはいかがですかというソリューションを提供するのは結構難しいと思います。そういった技術ではなくてソリューションを提供するビジネスのシステムはどのようなものかと考えてるのですが、答えがまだ出ていない(笑)。

松村──ある住宅メーカーで、一橋大学の商学部の先生と勉強会をやりました。その先生は産業モデルというのはコアになる技術があるとおっしゃっていました。コアの技術があってビジネスがあるという形で理解しようとするけれど、住宅メーカーや工務店はただアセンブルしているだけなので、その先生の要求に応えられる技術が見つからなくて、「この産業は何なのですか」と言われました(笑)。「何がイノベーティブで、市場で勝ち残るものはどうやって決まるのか」と問われても、「そういうものはないです」という話になった。そういう意味で核になる技術はないわけです。産業の基盤になる技術はなくて、むしろ技術を集めたりコーディネートする機能で、コーディネートにまつわることを処理するのが工務店あるいは建築家ですから、核になる技術となると「すいませんでした」といって帰るしかない。そうすると、コーディネートする対象が今まで一軒の家をつくる大工工事だったけれども、そこにヘルパーを入れてもよいと思うわけです。材木やサッシやガラスを集めているのに何故ヘルパーは集めないのか、という融通無碍なところが元々建築にはあるという感触をもっています。

松井──コーディネーションやインテグレートすることがコアの技術であるとするならば、コーディネーションの対象を増やしていけるということですか。

山本──コーディネーションの対象を増やすことは実は恐ろしいことで、松村先生の最後の話にもありましたが、われわれが今まで他産業と競争しなくて済んでいたのは、ある閉じた世界での複雑さに守られてきたからです。それが他産業と競争が始まったときに、社会的なサービスまで含めてコンサルティングすることになれば競合相手が増えるわけです。ケア業界の人たちも入ってくるかもしれないし、雑貨業界の人たちも入ってくるかもしれない。つまりわれわれの業界を守っていたものがなくなってしまう恐れがあります。サービス産業ですから資源となる明確なテクノロジーがないのはしようがないにしても、消費者にとっては対処不可能なレベルの複雑さを建築家は吸収してきたと思います。無制限にその枠を広げてしまうと、コーディネーションの結果として了解のあるキャッチボールができなくなる気がします。制度としても、建築家の仕事は建築士法などで定められていて、その技能が保証されているのですが、規制緩和されたら簡単に他産業が入ってきます。

松村──僕はどちらかというとそれでよいという立場です。入りたいやつが入ってきておもしろくなるのが活性化です。ところがそういうのが出てくると、よく問題にされるのが「安心・安全」です。全体的に見ればかなり高水準な安全が確保されていますから、本当にこのテーマを住宅に関して世の中が深刻に求めているかわからないにもかかわらず、何故かみな「安心・安全」と言っている。住生活者エージェントももともとは消費者がやりたいことを実現するためには、仕組みが複雑だからそれをコーディネートしたり、わかりやすく説明してくれる役割を担う業界というイメージだったのが、今年度から何故か「安心・安全」のための住生活者エージェントとなって、検査員の話に限定されてしまった。一方で建築業界は命に関わるので、政府も含めて締めつけを要求して、それがある形を守ってくれています。ただ、僕はもう行き詰っている感じがするので、極論すると、議論の上ではそれらを一度取り払った方が単純に面白いと思います。

山本──消費者側からすると、建てた家が壊れた場合に誰が保障してくれるのかという話にならないでしょうか。法で縛られていないから何でもつくれるとなったときに国家も守ってくれないし、その枠を外したことによって、消費者にとっての商品価値が落ちてしまうのではないのかという心配があります。それが果たして住宅という産業の未来に繋がるのかどうか。

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