Renovation Archives [002]
I
アートアンドクラフト[中谷ノボル]
●住宅[店舗付き住宅]

概要/SUMMARY



写真左=着工前の店舗付き住宅

写真右=コンバージョン後の住宅。
2003年9月10日完成。

ストストック×リノベーションの具体的提案として、1998年からシリーズ化している「リノベーション済販売物件」、その2003年秋モデルとしてリリースした。
建物は37年前に敷地面積10坪少々という狭小地に建てられた小さなビル。鉄筋コンクリート造の3階建は頑丈な造りで当初は文房具店として、また上階は住居として使われていたそうだ。商売が不調になったのか差し押さえや破産、競売という憂き目を経て所有者が転々と変わり、都市のストックとして市場に流通していた。そのまま買い手がつかなければ、あるいは解体されて土地としての商品になっていたかもしれない。しかし幸か不幸か、建物が解体に費用のかかる鉄筋コンクリートということもあり、当初の姿のまま流通していた。そんな建物に縁あって出会い、リノベーションの企画から設計、施工に至るまで関わることになった。
この建物はハードとソフト二つの意味合いでのリノベーションを必要としていた。設備や仕上といった物理的な部分と、使い方である。もとは大多数の人間が「このままでは住みたくない」と感じる古く傷んだ状態であった内外装を一新した。そして、一戸建ての建物=家族で住むという固定観念をリノベートしてみた。
一戸建て=ファミリーという公式にあてはめようとすると、住居としての有効面積が60平方メートル程度の本物件は市場に乗らない死蔵ストックとなったかもしれない。その建物を、1人多くて2人というユニットを想定してリノベーションしたことで、この不動産はただ「古かった建物がきれいになった」だけではなくなり、実際に住む人間を想像できるリアリティを持って再生された。
デザインの側面では「60年代の建物を当時のテイストを残しながら現代に再現する」ことがテーマ。モダニズムデザインで造られた、当時のファサードのタイルやスチールサッシは、替えることなく再利用している。新たに選ぶパーツは建物の存在感、時代性に馴染むものをひとつひとつ厳選した。また、建物は販売を前に「ストック×リノベーション展」の会場として公開。この展覧会は、建築ストックをリノベートして長く使いつづける社会が日本にも本格的に到来することを願い、アートアンドクラフトが企画・開催した。展覧会では建物そのものが展示物でもあった。

設計概要
用途=1〜3階 住宅(以前は店舗付き住宅)
構造規模=階数 地上3階建て
主体構造 鉄筋コンクリート造
面積規模=延床面積 92.37m2
建築年月日=1966年5月5日
リノベーション年月日=2003年9月10日
企画・設計・施工=アートアンドクラフト
施工プロセス/PROCESS

建物は私たちが出会ったときは倉庫として使われていた。まさに廃屋の面持ち。しかし4連窓やタイル貼の外観には趣があり再生の可能性を感じる建物であった。

上:1階1の方向から見た内部。
モルタル土間、壁にジプトン天井

2F・1の方向から見た内部。階高が3000あるのに天井高は2200ほど。
広がりが深い天井懐に隠されていた
2F・2の方向から見た内部。向かって右手にブロックで囲まれた洗面所・浴室があった。長年使われていない様子だったが、壊すのも大変なのでそのままになっていた。向かって左手にはキッチンの形跡もあった。
3F 1の方向から見る。

3F 2方向から見る。
和室の畳はすでになく荒れ放題。
竣工/COMPLETION


↑外観
外観の趣を活かすためデザインはそのままに塗装仕上げに。
躯体がしっかりしていたため外壁には目立ったクラックはなかった。

居住者が店舗やアトリエとして利用するスペースに。従って内装はほぼ元のまま。

↑1F 1の方向から見る。
居住者が店舗やアトリエとして利用するスペースに。従って内装はほぼ元のまま。
実際、購入者は1Fをグラフィックデザインのオフィスにしている。

↑2F 1の方向から見る。
窓際のキッチンカウンターは、床材に合わせて造ったオリジナル家具。

↑2F 2の方向からみる。
柱や壁には艶と焼むらのあるモザイクタイルを採用。しっくりと建物に馴染んでいる。



↑3F 1の方向から見る。
寝室のベッド枕元には60年代イメージのグラフィカルな生地を採用。2Fのドアにも違う柄を採用。
壁面造作は、今ではめずらしいラワン材やチェッカーガラス、ローズウッドの化粧板で構成している。



←3F 2の方向から見る。
バスルームのタイルや照明器具は長期間デザインが変更されることなく商品化されているもの。
年代を経た建物のリノベーションには欠かせないアイテム。




←3F 3の方向から見る
落ちつきのあるベッドルームと開放的なバスルームで構成するプライベートフロア。

第2回リノベーション・フォーラム レクチャー
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