Renovation Archives [008]
I
納谷建築設計事務所[納谷新]
● 住宅のリノベーション S-tube

概要/ SUMMARY


リノベーション前外観
既存建物は軽量鉄骨造のプレファブ住宅

リノベーション後西側外観
直方体の箱が飛び出る。
チューブ部分はガルバリウム鋼板スパンドレル。西側増築部分の基礎は外壁から600mmセットバックしている

1973年に建てられた軽量鉄骨造のプレファブ住宅(ナショナル住宅RN型)に直方体の箱(S-tube)を差し込んだように改造している、 設計者・納谷新氏の自邸だ。「オートバイをいじるのが好きで、自分が乗りや すいようによく改造しているんですが、それと同じような感覚なんです。 《S-tube》も自分たちが住みやすいようにリノベーションしています」(納谷 新氏)。
もとのプレファブは納谷氏の妻である建主が子供の頃に過ごし、その後は祖父が住ん でいた思い出のある建物だった。これを壊さずに残して、新しいライフスタイ ルに合わせて改造できないかと考えたところからこの計画は始まっている。構造体を補強する役割を果たす木造のチューブには新しい生活を挿入するという思いもある。

設計概要
主要用途=専用住宅
構造=既存部分:軽量鉄骨造 増 築部分:木造
規模=地上1階
敷地面積=540.37平米
建築面積=71.28平米(既存: 61.09平米)
延床面積=71.28平米(既存: 61.09平米)
竣工=1999年1月(既存: 1973年)
設計=納谷建築設計事務所 納谷 新
構造設計=森田建築構造事務所
設備設計=宮内工業
施工=今野工務店

外壁仕上げやサッシなどの外皮はそのまま利用している


ダイアグラム
プロセス/PROCESS

リノベーション前平面図

元のプレファブはとてもシンプルな構成で設計思想が明解に見える住宅である。基礎・軸組・屋 根・サッシュといった基本構造はそのまま利用し、南北方向3枚の壁を抜き、 既存の鉄骨軸組に木造で組んだ12.18m×2.75m×2.55mの直方体の「S-tube]を 差し込むことで、垂直ブレース・間仕切りのない細長い空間をつくっている。
tube状の構造体を強調するため、天井に照明などは一切取り付けていない。既存の図面が簡単なものしか残っておらず、ブレースの位置もわからない状況だったこともあって、現場を見ながら設計。天井と間仕切をいったんすべて取り払い、鉄骨の構造体を一部露出させている。台所や洗面などの水まわりは既存のものを利用せずに一新した。そのほうがコストも手間もかからないからだ。鉄骨を塗装し直して小屋裏を見せることで空間に広がりが出ている。外壁仕上げやサッシなどはそのままにして既存の外観イメージを残した。


リノベーション後平面図

リノベーション前玄関
居間から玄関を見る
壁はスギ板とOSB。左側壁面の丸い開口からは台所側の蛍光灯の明かりがスタイロフォームを透過してこぼれる

リノベーション前トイレ

リノベーション前浴室

リノベーション 後のトイレと浴室
トイレとの間仕切りを取り払っている。床はフロアリューム。天井はバスリブ

リノベーション前キッチン
キッチン
天板はヒノキの無垢板。 キャビネットの扉は、アルミの波板で芯材をはさんだアルポリック。奥の青色 の照明はスタイロフォームに蛍光灯を付け、ツインポリカーボネートで覆っている

リノベーション前居間
リノベーション前洋室
居間から食堂を見る
鉄骨の構造体は既存のものを塗装している。小屋裏天井はウレタンフォームの上有孔シナ合板。木製ブラインドはフローリング材をピクチャーレールから特注金物でつり下げている。フローリング材の小口の実を合わせてひとつながりの大きな面にすることもできる

リノベーション前和室
寝室
壁とル ーバーはOSB。ルーバーは1枚ずつ角度を自由に調整できる。天井にはテントを吊るしている
北側外観玄関部分
玄関の外壁はスギ板。内部と外部の両方を照らす照明ボックスが差し込まれている
■コメント
この作品がつくられた1999年は「リノベーション」という言葉 がまだ根付いていなかった。《S-tube》は当時の建築雑誌に改築や改修という言葉で紹介されている。しかし、《S-tube》はそれまでの改築の概念とは異なり、明解なコンセプトのもとにラディカルな建築的介入が行なわれた作品である。そのような意味においてリノベーション黎明期につくられたこの作品はリノベーション住宅の先駆けであったと言える。
一見どこにでもあるプレファブ住宅も有効な資源になり得る。《S-tube》は残す価値がないように思える建物もここまでかっこよく変えることができるということを示すリノベーション住宅のプロトタイプである。オートバイをカスタムしたり、古着をリメイクするような感覚で、大量生産されたものを自分の趣味や好みに合わせてオーダーメイドでつくり変えてしまう。箱に合わせて住むのではなく自分に合わせて箱を改造するという発想だ。(大家健史)
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