設計概要
●用途=クリエイターのシェアオフィス
●構造規模=地上3階
●主体構造=RC造
●面積規模=74.7坪
●建築年月日=1970年代
●リノベーション年月日=2003年4月
●企画=エムエイチユニット、b.e.w.s.、フラデザイン、ロウファット・ストラクチュア
●設計=早野正寿(エムエイチユニット)+井坂幸恵(b.e.w.s.)
●施工=有川建設株式会社、セルフビルド |
■「自分たちの働く空間を自分たちの使いやすいようにデザインしたい」
マンションの一室で窮屈に仕事を行なうことを余儀なくされるなか、創造の場所であり生活の一部であるワークスペースを思い通りの色に染めたいと思う人は多いだろう。そんな思いと「古くて潜在的価値を持つ建物を蘇らせたい」という思いが重なってできたのが、南麻布の閑静な住宅街に建つ《白ビル》である。
40年ほど前、ドイツのレンズ会社が自社ビルとして建てたこの建物は、現在の開口が狭く奥行きの深い現代の建物とは違い、広い開口が確保されかつ尺寸のモジュールで平面がきれいに分割されている。40年もの間テナントはさまざまに入れ替わり、白ビルへとリノベーションされる以前、外壁はエメラルドグリーンに塗られ街中の風景から浮いたような状況にあった。
この計画の背景にはビルオーナーとの意見の合致も挙げられる。オーナー自身建築が好きで、この建物に必要以上に手を加えず古いからこそ持つ味わいを残していきたいと考えていた。そこでこの計画の企画者たちに対し、自分の持つ資産を本当の意味で活用してくれると判断し、賃貸として貸し出すことでその活動に第三者として参加することを選んだのである。それはビル運営の新しい選択肢を指し示したものなのかもしれない。
計画の方向性は、既存の建物がもともと持っていたゆったりとした空間を維持し、長い年月の間に蓄積することで生まれる価値を掘り起こすものであった。その後、後年つけ加えられ、あたかも贅肉のようになっていた間仕切りや空調ダクト、造作家具などを解体し、そうすることでオリジナルの空間の簡素な美しさを復元することが、デザイン上の原点になった。3階はもともとドイツ人の社長の和風住居としてつくられたため床のレベル差が多く、壁も土壁に直に塗装されていたため特に手を加える必要があった。設備は全面的に改修を行ない、この部分に特に工事費がかけられている。当初デザイナーが寄り集まってできたものなので、照明などの家具のデザインは共同企画者たちが手がけている。
白ビルではさまざまなジャンルのクリエイターたちが寄り集まることで、時にアイディアを出しあい、新たな角度から横断的なデザイン提案をパッケージすることを目指している。ヒエラルキーのない自由でフランクな雰囲気は、この40年というビルのもつ緩やかな時間の流れと呼応しているかのように感じられる。
「白」という色が、これからどのように染まっていくのかが楽しみだ。
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