Renovation Archives [014]
クライン・ダイサム・アーキテクツ(KDa)寺設計
●家具のショールーム+オフィス[ガソリンスタンド] イデー・ワークステーション

概要/SUMMARY


リノベーション前外観

リノベーション(1996)後外観

東京下馬の交差点の角地にある使われなくなったガソリンスタンドを有効利用し、イデーのワークステーション兼ショールームとして再生させた1996年のプロジェクトである。
敷地の奥にあったキオスク(小さな2階建ての建物)を残し、それを覆ったかたちで増築している。ポリカーボネードの巨大スクリーンがふわりと包みこむような外観だ。既存建物をコアとして、そのまわりの床と階段に透過性の高いエキスパンドメタルを使用することで、このキオスクを建物のどこからでも目に入るようにした。黄色く塗られた既存建物は卵の黄身のような存在。他の背景はできるだけニュートラルになるようにしている。
この建築はリノベーションしてから8年が経過し、当時は家具のショールームだったところが現在ではcafeになっている。リノベーション後もそのような機能の変化に合わせ使いやすいようにイデーのスタッフの手によって改装が繰り返され、時間とともに成長し続ける生きた建築となっている。

設計概要
主要用途=イデー家具ショールーム+デザインオフィス
構造=鉄筋コンクリート造+鉄骨造(増築部分)
規模=地上3階(既存:地上2階)
敷地面積=116.53平米
延床面積=193.29平米(既存:約24平米)
竣工=1996年6月(既存:1950年代)
設計=クライン・ダイサム・アーキテクツ(KDa)+寺設計

現在(2004)の外観
プロセス/PROCESS

リノベーション後外観
撮影=木田勝久(Katsuhisa Kida)

リノベーション後(外観)夜景
撮影=Nacasa & Partners(ナカサアンドパートナーズ)

「元々あったキオスクがすごくチャーミングで、それを撤去するのはもったいないと思ったんです」とクライン・ダイサム・アーキテクツのアストリッド・クライン氏は語る。まるで貝殻のなかの真珠のように一番大事なものはこれだということを表わしている。新しいストラクチャ−は自立させ、既存建物にはタッチしないようにつくっている。既存建物の近くにソリッドな素材を使わないようにして、上から下まで全部このキオスクがきれいに見えるようにした。
低予算のプロジェクトだったので、エアコンやトイレなどの設備は既存建物のなかにあるものを使用し、これを事務室とした。
元の防火壁はほぼそのままで、塗り替えた。地下にある給油タンクは予算の都合で撤去せずに埋めたままにしている。
ショールームは家具が目立つようにニュートラルにつくられている。
敷地はとても賑やかな交差点で前面に電柱もあるので、建物全体を透明感のある感じにするとうるさくなってしまう。それらを消すために半透明ベールのようなもので建物を覆っている。
スクリーンの内側の窓ガラスには、ところどころに極彩色のフィルムが貼ってある。光が射し込むと色影が床に映り、ステンドグラスのような効果を出している。


1、2、3階平面図、断面図 出典=『東京リノベーション』(廣済堂)
1996年当時、10年後に道路の拡張工事をするという話があった。そこで全体の構造を西側前列から2番目の柱の線でわけられるようにしている。将来、道路幅を広くするときに建物は切り離すことが可能

2階内観(1996)
黄色に塗られた既存建物のまわりの床と階段には透過性の高いエキスパンドメタルを使用している
撮影=木田勝久(Katsuhisa Kida)

2階内観(2004)
現在はカフェとして使われているため、エキスパンドメタルの上に板を敷き新規の床を設けている 



1階内観(2001)
左側奥が既存建物。ガソリンスタンド時の「下馬町サービス・ステーション」の名前が書かれた扉は残して使用している
出典=『東京リノベーション』(廣済堂)

1階部分外観(2004)
現在、扉はエントランスに移されている

1階内観(2004)
右側奥が既存建物。現在はカフェとして使用されている
■コメント
2001年7月に月島のギャラリー、タマダプロジェクトコーポレーションで行なわれた第1回「リノベーション・スタディーズ」(★1)において、建築家の松口龍氏は、全国各地のガソリンスタンドがどんどん閉鎖されている状況とその再生計画について語った。誰もが一度は閉鎖してフェンスに覆われたガソリンスタンドを見たことがあるだろう。それらをいかに有効なインフラとみなし再生させるか。それは全国的な問題と言える。
1996年のこのプロジェクトはそんなガソリンスタンドをうまく転用させた実例のひとつだ。既存建物を大事に包み込むように増築しているところが興味深い。リノベーション後もスタッフの手によって改装が繰り返し行われ、生きた建築としてどんどん変化している。それはこのリノベーションによって建物にフレキシビリティがうまれたことを物語っている。(大家健史)
★1──同内容は『リノベーション・スタディーズ』(INAX出版)に収録されている。
Archives INDEX
HOME