Renovation Archives [020]
田島則行(テレデザイン)
●事務所[スタジオ] 《オープンスタジオNOPE》
取材担当=西瑠衣子

概要/ SUMMARY


左:リノベーション前内観

社会のオペレーションモデルとしてのオフィスリノベーション
NOPE》が立ち上がった1996年当時、日本の働く環境はあまりに寂しいものであった。大企業のオフィスは個性のない均質な空間が広がり、一方零細企業などはマンションの一室を借りている状況の中で、もっと別のオルタナティヴな仕事場をつくれないかと田島則行氏(テレデザイン)は考えた。NOPE》誕生の背景には、田島氏のロンドン留学中の体験がある。80年代イギリスは不景気で、空きビルをアーティストやクリエイターが活動拠点として使用するケースが多かった。そこでは年に数回アトリエを公開(オープンスタジオ)することで、人の交流や情報交換が行なわれていた。批評家やアート・キュレーターなどがそういったところに積極的に足を運ぶため、アーティストにとってはチャンスの場にもなるという面がある一方で、地域との交流も生まれていた。田島氏は日本でも似たようなことができるのではないだろうかと思っていたなか、96年7月、たまたま不動産屋で変わった図面をみかけ、興味半分で現地を訪れた。1970年頃に建てられた木造2階建てで、上階は以前、塾や事務所として使用されていたが、一部天井がはがれ、床・壁は土埃にまみれ惨憺たるものであった。80年代に入ると木造よりコンクリート造のオフィスビルが好まれたため、この建物も5年間借り手がみつからなかった。しかし、田島氏は70坪という広さに何か面白いものができるかもしれないとインスピレーションがわいたという。そこで創作活動をしている友人知人に声をかけたところ、アーティスト、キュレーター、建築家など20数名が集まった。建物は賃貸で、借主は田島氏。他のメンバーはサブ・テナントとして面積に応じた賃料を支払っている。
スタジオは、足場、パーティションや半透明波板、カーテン等を使ってゆるやかに間仕切り、メンバー同士が干渉しあいながらも独立性を保つ工夫をしている。間仕切りは天井までの高さがなく音が筒抜けなので、メンバー同士の活動を推測し、さまざまなレベルの情報が共有できる。ここでは自分のスペースに居ながらにして社会とのさまざまな接点をつくることが可能である。またメンバーの変更に伴い、パーティションの位置はたえず変化するため、簡単に壊してつくりかえやすいよう、パーティションはベニヤを使用している。変化するメンバー間の関係、人と人との関わり合い方といった目に見えない情報を考慮しながら、スペースを再構築していくことが大切にされている。

主要用途=シェアスタジオ
構造=木造
規模=地上2階
延床面積=77坪
リノベーション年月日=1996年11月
・建築年月日=1970年頃
所在地=東京都港区三田2-12-5
企画・運営=田島則行(テレデザイン)
施工=アルナック、セルフビルド
右:オープンスタジオの様子
社会的なネットワークを構築するために、オープンスタジオNOPE(以下NOPE)
では年に1回はオープンスタジオを実施している。そこではイヴェントやワークショップなどが行なわれ、建築家やアートなどのさまざまな職種のクリエイターが集まって交流する。最近では麻布、六本木に複数あるシェアスペースと連携して、東京オープンスタジオネットワークを開催し、それぞれの場所をつなげて広がりのある活動の展開を目指している
プロセス/PROCESS
上:リノベーション前。木造であるが柱の少ないオープンな空間で、柱は茶色に塗装されていた
現状:2004/PRESENT

左:外観
築30年ほどの木造2階建てでいくつかの事務所・集会場が混在している。一番奥の2階がNOPEのエリア
右:内観
入ってすぐ右手が受付

左:パブリックスペース
以前はどのブースからも直接に繋がっていたが、現在は個別化している。以前はメンバー同士の打ち合わせが一番多かったが、活動の形態が変わり、外部の人を迎えることが多くなってきたためである
右:天井
切妻屋根は、断熱性能を高くすれば、天井裏を有効活用できる。天井は取り払い、小屋の傾斜に沿って断熱材とベニヤを屋根裏に張り、屋根裏を塗装した。普段見られない天井裏の大工仕事を見せることにより、空間に面白さをプラスしている。蛍光灯を小屋にアッパーに付け直して間接照明にした
ワークスペース
間仕切りは基本的に45mm角の柱を立ててベニヤを打ち付け、塗装しただけの簡易なもの。常にプランは変更するので、簡単に壊してつくりやすいものにしている。
また、ブース内の間仕切りは足場を用いている。足場は移動可能で丈夫で組み立てが簡単なうえ、足場を積み重ねると壁だけでなく本棚にもなる
■コメント
特質を持った空間に触発されて人がつながるという現象は、例えば同潤会アパートのように古い建物を見るため、守るために人が集まることと同じであろう。
この現象は、これからの地域づくりや街づくりのための人材の集まり方を暗示している。《NOPE》は、リノベーションがワークショップとして機能することで、ネットワークの発生を促したと言える。
《NOPE》の構成メンバーはほとんどがクリエイターであるが、それは彼らの生産リソースが、「都市環境」に大きく依存していることと関係している。なぜなら、《NOPE》内での彼らの緩やかなネットワーク、微妙な情報の共有の仕方は、まさに都市の部分集合と言えるからだ。彼らは、そうした都市のリソースを自分のものとして自由に操ることで活動している。それは新しい都市の生産者モデルと言えるかもしれない。そして、《NOPE》のようなネットワーク形態は、その新たな生産者たちが接続しようとする社会のアナロジーとして存在しているのであろう。
《NOPE》のリノベーションは、そこに集まる人々が「こうあってほしい」と考える都市や社会に対するオペレーションの実験的モデルなのだ。
(西瑠衣子)
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