Renovation Archives [021]
I
長坂常[スキーマ建築計画
●賃貸マンション[分譲マンション] 《吉原の家》
取材協力=長坂常(スキーマ建築計画)
取材担当=吉岡誠生

概要/SUMMARY


左:竣工前/右:改修後
東京都台東区浅草から北に1kmほど行ったかつて吉原と呼ばれた場所に、斜線制限で3階以上を切り落とされ、バルコニーが広くとられた外壁ALCの鉄骨造マンションが建つ。ごく一般的な三角形の側面をもつ建物であり、そんなビルの4階にある一室を改修することになった。来年には6室ある全室を改修する予定であるが、手始めにこの部屋を先行して手がけた。

最初に現地に行き、室内を見たとき、築13年とさほど古くないため、お金をかけて改修すべき必要性も感じられず、かといって当然住みたくなるような特徴もない非常に平凡な物件だった。きっと施主の改修の動機もそこにあったのだろう。とはいえ、われわれはただ意匠性だけではなく、明確にゲインできる部分を生み出したいと考えた。そこで、室内から分断され使われていないバルコニーの面積19.48平米を室内に取り込み、専有面積の拡大を試みた。そのために、サッシュ間を埋めるALC壁を取り除き、防水済みの既存のバルコニーにバスルームの機能を持たせ、旧バルコニーと室内とをつなげる役割を担わせた。

そこで生まれたつながりをさらに曖昧にし、消し去るため、バスルームとしたことによりレベルが上がったバルコニーと、低い共用廊下とのレベル差を玄関ではなく部屋の真ん中でつくり、そこで双方の質感も変えることで部屋のコントラストの境界を移動させ、室内と屋外との境界を完全に消し去ることを試みた。
(長坂常)
設計概要
用途=賃貸マンション
構造規模=地上6階建
主体構造=S造
面積規模=56.12平米+19.48平米(バルコニー)
建築年月日=1991年
リノベーション年月日=2004年10月
設計=スキーマ建築計画
施工プロセス/PROCESS
▼改修前
上左:斜線制限で斜めに切り取られた、鉄骨造の建物。築13年の割にくたびれている
上右:倉庫として使われていた部屋

下左:L型のキッチンが広がる
下中:バルコニー側の開口部
下右:カビの臭いが立ち込めていたバスルーム
 改修前の図面
▼工事中

概算用の計画後すぐに机上での想定が現状と食い違いがないかを確認するために解体。これによって、改修特有の予想外のアクシデントが起こることを防ぐ。意匠の精度を新築並みに上げるには必須条件といえる

寝室とバスルームの境界
右半分が改修前から防水済みのバルコニー部分

既存の建物は、鉄骨造でありながら、かなりの重量のブロックやコンクリートが打たれていた

ALC壁を取り除き視界が広がった

バスルームになる旧バルコニー
コストを抑えるために梁型などを残したことで、逆に塗装作業にかなりの手間がかかった
現状/PRESENT

フラットなキッチンテーブル
油飛び防止用の折りたたみコンロカバー付/シンクカバー用まな板付

奥のフローリングと同質の折戸の向こうは、寝室とバスルーム

キッチン・ダイニングスペース

室内からバルコニー、バスルームを臨む

段差境界部
バスルーム側(右)をリビング的質感にし、キッチン側(左)に風呂場のような仕様をあてた

夜景を背景にダイニング、リビングを望む

サッシを挟んで、室内ではアイアンウッド(フローリングタイプ)を、そして屋外ではアイアンウッド(デッキタイプ)を使用し、フラットにおさめた

旧バルコニーに納めたバスルーム
 改築後平面図、断面図
■コメント
集合住宅の増床行為
★1の例として本事例を紹介した。増床行為とは改修によって住戸内の床面積を増やし、不動産価値を高めることである。《吉原の家》ではバルコニーを室内に取込むという増床行為が行なわれている。本事例ではバルコニーにバスルームを設置するなど設計者独自のアイデアが見られる。
既存のマンションは道路斜線制限によって3階より上の階が斜めにカットされていて、そこに設けられたバルコニーの面積は室面積の3分の1以上もある。そのためバスルームが納まるほどの奥行きがあり、防水もしてある。正面は低層の民家と駐車場なので見晴しも良い。これらの特徴がバルコニーを使ったリノベーションに活きている。
バルコニーを室内化する手法は、集合住宅の再生法のひとつとして海外でも多くの事例がみられる。本件のように条件によっては適用の可能性がありうるが、日本では、二方向避難経路の確保としてバルコニーを避難経路と見なすことが多いため、いくつかの事例を散見する程度である。
今回のリノベーションに続き、マンションの6室すべての改修が予定されている。設計者による改修でこの半外部空間がどのように生まれ変わるか楽しみである。

★1──集合住宅の増床行為としてほかに以下のものが挙げられる。
・ 2戸1戸改造:2戸を分けている界壁などを取り除くことで、2戸を1戸にする行為
・ ユニット工法による増築:浴室や居間を組み込んだユニットを地上階から積み上げる。住み続けながら改修が可能
・ 屋上増築:土地の購入や外構工事などをせずに住戸数を増やすことが可能
(吉岡誠生)
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