Renovation Archives [022]
スキーマ建築計画ブルースタジオ
●賃貸アパート[社員寮] 《sumica》
取材協力=長坂常(スキーマ建築計画)
取材担当=吉岡誠生

概要/SUMMARY


左:竣工前
右:改修後
この計画は築30年経つ木賃モルタルアパートのリノベーションである。このアパートは、建物接道部が2メートル以上ない再建築不可物件のために建て替えができず、放っておけばそのまま朽ちてゆく建物であった。既存の物件は、一昔前の典型的な木造アパートで、風呂はなく、トイレも和式タイプで、借り手がついても2-3万円程度の賃料しか取れない物件で、現オーナーが経営する会社の社員寮として使っていたものの、それですら使い手がいない状態であった。

そこで、何とか賃貸アパートとして貸し出せるようブルースタジオと共にリーシング(賃貸仲介業務)から計画した。まずは貸し出すために最低限必要な機能としてシャワー、洋式トイレを足した。さらに壁紙の張り替え、畳の入れ替えなどを行なうのが普通のリフォームだが、それでは投資額に見合う賃料が取れないのは明らかであったため、室内のデザインでその穴埋めをすることにした。ただ、もちろん予算に華美なことができる余地はなく、どれだけ効率的にデザインを行なうかが鍵であった。

そもそも、「リノベーション」のデザイン的定義を私は「記憶の再構築」と考えており、できるだけ既存部を活かし、手をつける部分を集中し、それが全体に波及するよう編集作業的な設計を行なった。このアパートに残された記憶の象徴的な部分として「キッチンと居間という2部屋にわけられた生活」「押入のある生活」の二つを「柱」に託し、それをシンボル化し、残すことを試みた。
(長坂常)
設計概要
用途=賃貸アパート
構造規模=地上2階建
主体構造=木造
面積規模=160平米/8室
建築年月日=1972年
リノベーション年月日=2002年2月
設計=スキーマ建築計画
プロデュース有限会社ブルースタジオ
施工プロセス/PROCESS
▼既存

左:トイレ
右:和室

左:改修では、この押入にシャワーユニットを入れた
左:既存では廊下側にキッチンがあった
既存平面図
▼工事中
左:解体時の風景
押入も取り壊され、二つの部屋がひとつながりになったところ
右:設備配管を最短距離でつなぐため 既存のトイレと押入を結ぶラインを設備配管ラインとした
左:押入の設備配管ライン以外は床下地をできるだけ再利用できるよう計画した
右:合板とアングルのみで作ったキッチンカウンター。非常にローコスト。足下がすっきりしているため、部屋が広く感じられる
初期のイメージパース
この段階ではすこし贅沢なキッチンを想定していた。最終的には簡素ではあるが、すっきりしたキッチンになった
左:押入を集中的に手を入れた。この中にシャワーユニットが入っている。その隣に収納も盛り込んでいるため、部屋が広く感じられる
現状/PRESENT

左上:トイレのガラスとハンドルを再利用したいと考え、補修をし、場所を移動しながらも既存の扉を使った
右上:シャワーユニット。右半分は、隣室のシャワーユニット
右下:キッチン

オリジナルのポスト

パッチワークのような柱の穴埋め
改修後平面図
■コメント
いわゆる再建築不可物件
★1の解決方法として行なわれたリノベーションの事例。この木造アパートの敷地は接道条件を満たしていないため、借り手が付かない状態であっても建て替えることができなかった。そこで新築ではなく改修を行なったことで、借り手が付き建物本来の役割を取り戻したのである。改修前は3〜4万円の家賃でも借り手がなかったが、現在の家賃は8万円前後、全室入居中である。ネット上での入居希望者も殺到したという。改修において設計者は、木造アパートに残る懐かしさ、親しみやすさに着目し「記憶」と呼んでいる。ここでは古びたものがむしろ珍しいものとして若者を惹き付けたのだ。このアパートに限らず、再建築不可物件は不良物件として見なされてきたが、最近では通常の物件よりも安価な再建築不可物件に着目する業者や、改修のための融資に協力的な金融機関も現われてきた。今後も、こういったリノベーションの事例が期待される。

★1──再建築不可物件:建築基準法 第43条(敷地等と道路との関係)「建築物の敷地は、道路に2メートル以上接しなければならない」を満たしていないため、新築する際の建築許可が降りない物件。柱と壁を残した改修は可能。類似したケースとして市街化調整区域の建物や既存不適格建築物
★2がある。
★2──既存不適格建築物:建築した時には合法だったものが、その後の法改正により法規に適合しなくなってしまったケース。具体的には、容積率・建ぺい率のオーバー、耐震性の不足などが挙げられる。現行の法規に適合するように建て替えると、容積率などが激減するケースが多い。
(吉岡誠生)
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