Renovation Archives [023] Open A Ltd.[馬場正尊] ●オフィスビル[倉庫]《re-know》 取材担当=新堀学
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概要/SUMMARY |
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改修前外観(サッシュのみ撤去されている) |
1階外観 |
■ロフト
in 東日本橋 築30年のオフィスビルのコンバージョン・プロジェクトである。敷地は東京都中央区東日本橋、近年の床単価の変動により、地域オーナーおよび自治体側にコンバージョン、リノベーションへの関心が高まっている地域である。 設計者の馬場正尊氏は、東京にリノベーションを根付かせようと活動しているR-Projectの中心メンバーであり、自身の活動するオフィスも同じ日本橋のガレージを改造したコンバージョン物件である。その土間フラットから日本橋を眺めるストリートのレベルの視点がこのコンバージョンにも反映されている。 2002-3年ごろにいくつかの同時多発的なリノベーションの活動が東京周辺で立ち上がっている。この東日本橋、神田地域を中心にした地域では、馬場氏ら後のR不動産チーム、およびIDEE、スタジオNOPEなどの複数の関係者が関わるかたちでR-Projectが発足し、2003年に東京デザイナーズブロック・セントラルイーストが行なわれた。この活動は、地域の発見、空きビルの再活用というコンセプトにより、このエリア全体のコンバージョンをもくろむ活動であった。《REN BASE》なども、その動きに連動した形で発表されている。 その馬場氏自身が、IDEE Rとともに今度はテンポラリーなイヴェントではなく地域に定着する活動の一環としてコンバージョンを手がけ、リリースしたのがこの《re-know》である。 建物は6階建てのオフィスビルを、地下1階および地上1階をインテリアショップIDEEのテナントにし、2-4階を小さいユニット、上の2層を大きなユニットとした、「ニューヨーク・ロフト」イメージのSOHOタイプコンバージョンである。 プランニングにおいて、2-4階の共用部分と各ユニットの間が透過性のある仕切りとされているのは、共用廊下にストリート的な外部を導入したパブリック空間として捉え、そこに向けて各テナントがメッセージを発する関係が持ちうることを想定したプランを目指したためだそうである。各住戸のプライバシーは、窓のある南面に向かって設計されている。窓側にはインナーバルコニーの手法により、小さいながらもテラスが取られている。ユニットは街に接続するものとして位置付けられている。 上部2層は、斜線後退を利用して南面に向けて大きく取られたテラスをとり、そこから外部階段によって上階へ接続するという構成の変則メゾネットとなっている。ここでも、生活の中に街の空気と触れることがプランニングに仕組まれている。自身も拠点をこの地域に移した実感と、また世界中のリノベーションを実際に見て回った体験から導き出されたプランニングは、ローカルとグローバルの境を超えて見る人のイメージを喚起する魅力を持っている。 |
設計概要 ●所在地=東京都中央区 ●用途=事務所、住居 ●設計=Open A Ltd. ●プロデュース=IDEE-R PROJECT株式会社 ●竣工=株式会社フジケン ●空調・衛生=BF〜2・空調 琉南設備工業/衛生、3F〜6F 空調 田中工業所 ●電気=山加電業 ●面積(before/after) 敷地面積=392.93平米/392.93平米 建築面積=348.525平米/348.525平米 延べ床面積=2130.660平米/2130.660平米 階数=地上6階 地下1階 B階床面積:315.9平米/1階床面積:315.9平米/2階床面積:315.9平米/3階床面積:315.9平米/4階床面積:315.9平米/5階床面積:296.7平米/6階床面積:234.9平米/R階床面積:197.0平米 構造=鉄筋コンクリート造 設計期間=3カ月 施工期間=5カ月 施工費:約 1.6億円 |
改装後内観 |
現状:2004年/PRESENT | ||
上左:建具改修後。ペアガラス、断熱サッシュのインストール 上右:3階廊下ガラス面 中:3階内装、廊下との仕切りガラス面 下左:4階内装水周りユニットと既存の躯体とのコントラスト 下右:5階メゾネット水周り |
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■コメント エリアに接続するリノベーション 外装、内装ともに最小限の改修、補修でありながら、要所を締めたディテーリングにより、全体としてデザイン性を感じるコンバージョンとなっている。 そのためもあり、この地域においてはやや高めの単価設定にもかかわらず、出足は好調だという。これも《Lattice 青山》同様に、コンバージョンによる付加価値が、ユーザーへの訴求力を高めた事例と言えるだろう。 特筆すべきは、馬場自身の活動が、先の東京デザイナーズブロック・セントラルイースト、セントラルイースト東京2004などのかたちで、地域の活性化への接続を射程に入れつつ行なわれているという背景である。自身の拠点をこの地域に移し、地域の商工会などとの日常的な連携により人のリソースの構築も進めている。 建築単体のコンバージョン自体は、あくまでもその所有者の「所有」の範囲内でのリソースの活用でしかないが、それが地域全体において点から線、線から面になっていくことで、リノベーションが地域性を形成する可能性が出てきている。 積み重ねられる時間が都市空間を形づくることが意識されるようになるとき、それは短期的な収支を超えた地域全体のリソースを耕し育てることにつながる活動になると考えられる。それを建築プロパーの人間だけでなく地域の人々と連携しつつ、共存しながら進めていく彼らの活動は都市活動的な視点からも評価すべきであろう。この《re-know》への物件反応の良さも、そういったスタンスへの共鳴が確実に都市住民の間に存在し、なおかつ有効であることの証明のひとつであると言えるだろう。 これらの馬場らの東日本橋を舞台にしたフィールドワーク的な活動を、リノベーションを触媒とした市民リソースの編集作業として捉えると、そこに都市のかたちへのイニシアティヴの新しいかたちを示唆しているのではないだろうか。
(新堀学)
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