Renovation Archives [026]
松葉力+田島則行+テレデザイン
●シェア&レンタルオフィス[オフィス] REN-BASE UK01
取材担当=西瑠衣子

概要/SUMMARY


左:竣工前/右:改修後

撮影=高山幸三
東京都千代田区神田地区には多くの空室を抱える中小規模ビルが数多くある。2003年3月千代田区まちづくり推進公社においてまとめられた「千代田SOHOまちづくり推進検討会提言書」に賛同した民間有志が、提言に述べられている「家守」事業を民間レベルで具現化するために、「神田RENプロジェクト」を立ち上げた。ビルの空室を有効活用するため、散在する中小ビルの空室をサテライトとし、そこで働く人々が共有できる会議室や機器を一カ所に集めたコア物件を拠点にしてネットワーク化し、あたかもひとつのビルのように活用しようというプロジェクトである。《REN-BASE UK01》はそのコア物件である。
同スペースは、長いあいだ空いたままとなっていた築46年のテナントビル(当初は蓄音機メーカーの本社ビルとして建設された)2階部分を、コンバージョンの実績もある建築プロデュース業に携わるアフタヌーンソサエティ社が借り、
1000万円をかけてレンタル&シェアオフィスへと再生したものである。
ネットワーク化された空室を管理運営していくにあたって、江戸時代の都市で、家主に代わって家を管理し、店子の選定から家賃の取立てまで行なっていた「家守」の仕組みを現代に復活させる。現代の家守は、ビルオーナーに代わって建物の改修やテナント集め、日々の運営などを行なうと同時に、建物単体を管理するだけではなく、周辺地域を含めたコミュニティを形成するなどのマネージメントを行なうことで街全体の価値をあげていくことが目的である。
設計概要
所在地=東京都千代田区
用途=シェア&レンタルオフィス(以前は専門学校がテナントとして入っていた)
構造=RC造
規模=地下1階地上6階
建築面積=131.15平米
竣工年=2003年(既存は1957年)
企画、運営=アフタヌーンソサエティ
設計=松葉力+田島則行+テレデザイン
施工=齋藤工業
施工プロセス/PROCESS
改修前 設計は松葉力氏と田島則行氏(テレデザイン)が担当。彼等は以前にシェアオフィスの《オープンスタジオNOPE》を運営してきた実績があり、その経験が活かされている。
コストを極力抑えるため、内装は簡易なパーティションで仕切り、ライトに仕上げている。
室内のグラフィックデザインを佐藤直樹氏(アジール・デザイン)が担当し、プレーンな空間のところどころに室名を記した文字を入れてアクセントを付けている。完全に仕切られた部屋はなく、空間同士にゆるやかな繋がりを持たせている。
スチールパーティションをすべて撤去し、一旦、スケルトンの状態にした。壁・天井の補修、床の下塗りが行なわれた
パーティションは細い柱にベニヤ板を打ちつけ、塗装を施している。間仕切りの上部は空けており、完全には仕切られていない
机はつくりつけ。パーティションの一部には半透明の板(ポリカツイン)を使用。ネット環境を整えるためコンセントを追加し、壁際にはLANポートを設置した
現状/PRESENT
「ネスト」と名付けられた執務空間。仕切のない「オープンネスト」(手前)と、緩やかに仕切られた「クローズドネスト」(奥)がある。ミーティングルームやサポートデスクもあり、コピー機やドリンクサーバーも使えるようになっている。一人用専用席貸し方式とグループ用席貸し方式があり、座席数は24席

パーティションで囲まれた空間を自由に使いたいという人のためのブース貸し方式。10室のブースがあり、それぞれに2席ずつ座席が設けられている
現状写真(3点)
撮影=高山幸三
 平面図拡大
■コメント
このプロジェクトを展開するうえで、コア物件の建築設計以外に二つの重要な項目がある。

ひとつはファンド(投資信託)で、日本政策投資銀行が中心となり整備が進められている。
ビルオーナーたちがコンバージョンを行なうにあたって、通常内装部分には担保価値がつかないため、銀行からの融資が困難であり財政的な問題を抱えている。そこで地域単位でビルの空室をまとめて管理運営し、コンバージョン、店子集め、企業支援など総合的な援助を行ない、最終的にビルの価値が上がったらその収益を出資者たちに分配するファンドの仕組みが採用された。
この仕組みにより、神田RENプロジェクトは建物単体にとどまらず、街全体のコンバージョンを可能にするという見方もできる。
そのなかで街のユーザー同士のネットワークを構築するにはファシリテーション(活動が円滑に進むように支援を行なうこと)は欠かせないものである。そういった意味で、今後は管理運営者である家守のような職能の要請はますます増してゆくであろう。
大きな再開発ではなく小さなリノベーション行為が、長い時間を経てやがて大きなネットワークをつくり出す、このようなファシリテーションが鍵となるようなまちづくりは、今後ほかの地域でも展開されることが予測される。

二つ目は、プロジェクトを街に浸透させるためのプロモーション活動である。
RENプロジェクトのメンバーがこの地域に興味を持つクリエーターたちと共同で2003年に「東京デザイナーズブロック・セントラルイースト(TDB-CE)」(2004年より、「セントラルイースト東京(CET)」に改名)を立ち上げ、神田、日本橋地区の空きビル各所を会場として若いデザイナーやアーティストが作品を展示するイヴェントを行なっている。
コンバージョンを行なう上ではビルオーナーの意思決定が重要なプロセスであり、その点でビルオーナーに従来にないビルの新しい活用法を提案するCETの活動が、まちづくりを進めていく上で有効な働きをしている。
また、CETの活動はまちのプロモーション活動にもつながるものであり、オーナーだけではなく、若いクリエイターなどに都心に住む魅力を感じてもらうきっかけとしての可能性も秘めている。
(西瑠衣子)
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