Renovation Archives [028]
小泉雅生/C+A
●住宅の増築 《メガタ》
取材担当=大家健史+新堀学

概要/SUMMARY

設計概要
所在地=神奈川県
用途=専用住宅
構造=鉄骨造(1、2階)+鉄筋コンクリート造(地階)
規模=地下1階地上2階
建築面積=92.41平米
延床面積=198.17平米
竣工年=2003年(既存:1920年代)
設計=小泉雅生/C+A
施工=岩本組
東向きの斜面を含む約2000平米もの敷地の高台に建つ、築80年を超える木造の母屋に対する若夫婦のための住宅の増築計画である。
きちんと造園された敷地と母屋のこれまでの文脈を壊さぬよう、増築部は母屋の裏手側に、母屋と敷地境界線、そして既存樹木の位置関係を力学に置き換えるかたちで計画された。
設計者である、C+Aの小泉雅生は、この敷地のこれまでの履歴を引き継ぎつつ、計画の対象を反転という操作により、たとえばこれから母屋や樹木が消えていった後もそれらの痕跡が引き継げないかということを考えたという。
存在するものがいつかは消える建物のあたりまえのライフサイクルを踏まえ、それを敷地のライフサイクルを構成するものとして捉えなおした結果がこの増築計画であり、存在物と余白は反転しつつお互いを規定するというプログラムがこの敷地にインストールされたといえるだろう。

上:増築部分外観、プロフィリットガラスによるゆるやかなカーブ
下:同内観
施工プロセス/PROCESS
左:余白のヴォリューム決定のフロー 建築は、敷地境界、母屋、既存樹木の余白を侵食する形でヴォリュームが決定された。それは、設計者の言葉によれば「焼く前のお好み焼き」のようなものが、「ある所で粘度があがり止ま」ることで、現在の形態が決定されている★1。
母屋に面する側は半透明のプロフィリットガラスによりゆるいカーブで切り取られ、反対側の敷地境界側は、むしろ開口を抑えた表情になっている。
母屋との接点は短い渡り廊下となっており、母屋と増築の間に生まれた隙間を横断する一瞬にプロフィリットガラスのヴォリュームが反転した第三の空間が垣間見られる。

★1──五十嵐太郎+リノベーション・スタディーズ=編『リノベーション・スタディーズ』(INAX出版、2003)
母屋と増築
現状/PRESENT
左上:エントランス見上げ
左下:上部リビング
右下:キッチン周りから既存樹木を望む

断面図(垂直方向のグラデーション)

断面図(母屋と増築)
プロフィリットガラスの母屋側立面
敷地境界側の立面

1階プラン

2階プラン
■建築による敷地の利用
若夫婦のための空間ということもあり、母屋の端正なたたずまいとは異なる、ダイナミックな空間構成が、かつて余白であった空間に作りこまれている。
基本的にはヴォリュームをワンルームとして捉え、上下に積み重ねられたパブリックからプライヴェートへと空間の性質のグラデーションを作る構成となっている。
敷地の延長として建築を考え、空間を利用するという考え方がここに実体化している。
母屋に面するプロフィリットガラスの曲面は、インテリアから見ると母屋や既存樹木からの影響の力学を実体化しているヴォリュームとして認識される。
それはこのワンルームが、あくまでも敷地の中の空間であるということを表現しているといえるだろう。
境界面をプロフィリットガラスとすることによって、それらの存在はわかるが、可視できないという状態を作り出している。
(新堀学)
【 clumun 】敷地の延長としての建築/プログラムを内在する敷地
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