Renovation Archives [029]
建築設計SPEED STUDIO 西田司+保坂猛
●週末住宅+賃貸ワンルーム[雑居ビル] 《葉山の別邸》
取材担当=吉岡誠生

概要/SUMMARY


左:改修前の外観/右上:改修前の1階
敷地は神奈川県葉山の海岸沿い、山と海に挟まれた景勝地。スナックや定食屋が雑居していた鉄骨ラーメン構造の3階建ての建物を改修し、海辺の別荘として転用している。葉山は「御用邸」で知られる保養地として栄え、多くの名士の別邸が設けられたことで知られている。ここは高速を利用して東京に通うことが可能なこともあり、現在でも別荘地として根強い人気がある。海の近くの土地の坪単価は陸側に比べて3倍近くにもなり、特に本事例の敷地のように海岸と道路に挟まれた土地は希少価値が高い。施主が1年間かけて探しあてたという。コスト面で海沿いの場所の購入を重視した施主の要望で、新築ではなく改修することが選択された。
施主の亡くなった母は鎌倉彫りの師範であり、自宅に作品を置くスペースが不足していることもあり、この別荘に収めたいという要望もあった。
1階はキッチンやリビング、2階は寝室および浴室、3階は賃貸住宅となっている。賃貸住宅には希望者が多数おり、現在の入居者は入居時に2年間分もの家賃を入れている。
設計概要
所在地=神奈川県葉山町
用途=週末住宅+賃貸ワンルーム
構造=鉄骨造
規模=地上3階
敷地面積=103平米
建築面積=40平米
延床面積=120平米
リノベーション年=2004年11月
設計=建築設計SPEED STUDIO 西田司+保坂猛
※※現在は西田氏主宰のon design partners
保坂氏主宰の保坂猛建築年設計事務所として活動
構造=坂根構造デザイン
施工=山幸建設
改修後の1階
施工プロセス/PROCESS
海岸から擁壁によって小高く上がっている1階の改修は、既存の壁を取り払い、新しくガラスの引戸を設置した。引戸をすべて解放すると室内と外部との境界があいまいになり、半屋外の空間となる。また内壁を延長させた塀で海側を除く敷地境界をコの字に囲むことで、敷地全体を半屋外空間へと取込んだ平面構成となった。この内壁にはキッチン、トイレ、階段など諸機能が付属し建具により収納されている。空間は南に面する海に大きく開き、さらに諸機能を収納する建具および塀に熱反射ガラスを貼り、海の景色を映し込む。これらの操作により、海の景色とガラスに映り込んだ海とがあいまった、四面に海が広がっているかのような空間となった。賃貸として使われる3階へのアクセスは屋外階段を使用し、1、2階と分離している。
上:1階平面図
中:2階平面図
下:3階平面図
現状:2004年/PRESENT
左:改修により半外部空間となった1階。海を眺める
右:熱線反射ガラスは建具から塀へと連続している
左:海を映し出す熱線反射ガラスの建具
右:建具を開けるとキッチンなどが収納されている
左:敷地境界の塀が海を映す
右:熱線反射ガラスを透かして内部の棚に納められた作品を見る
■改修によってサイトスペシフィックな状況をくみ取った建物へと変貌した事例。サイトスペシフィックとは「特定の場所に存在すること、その場所の特有性」という意味であるが、《葉山の別邸》は、海辺というサイト(敷地)の特性を活かしている。
既存の建物は南に面する海に開口を向けている以外は、海辺にあることと関係のない構成をしていたが、設計者は、海へ開く、海を映すという操作を行ない、景観に恵まれ、潮騒の心地よい別荘へと再生させている。
サイトの特性を活かしたことは、一般的な居住空間よりも自然環境を意識できることや余暇を楽しめる心地よさが優先されることが多い別荘建築への改修ならではと言える。
(吉岡誠生)
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