Renovation Archives [032]
藤木隆男建築研究所
●診療所[パチンコ店]《京王八王子山川クリニック》
取材担当=村井一

概要/SUMMARY


左:リノベーション前外観
右:リノベーション後外観
閉店したパチンコ店の透析クリニックへのリノベーション/コンバージョンである。当時、京王八王子山川クリニックの山川弘院長は、新しいクリニックの必要性を感じていた。もともとはオフィスビルの1フロアを利用して透析治療を行なっていたものの、建物の仕様や患者のプライヴァシー保護など多くの問題を抱えていたからだ。土地探しにあたったのは三菱地所住宅販売吉祥寺営業所の藤澤秀之氏だった。藤澤氏は京王八王子駅前に、閉店して不良債権となったパチンコ店を見つけ、土地の取得に先立って、建築家の藤木隆男氏に改修の検討を依頼した。「建物自体は新しいものの、廃墟的な雰囲気があった。しかし平面などの検討から、透析スペースはすっぽり入ることがわかったので、既存の建物を壊さないで活用しながら、新しいクリニックをつくるというプログラムの見通しはこの時点で立っていた」と、藤木氏はこの計画のスタートを振り返る。

左:リノベーション前内観
右:リノベーション後内観
設計概要
所在地=東京都八王子市
用途=診療所
構造=鉄骨造
規模=地上2階建
敷地面積=691.38平米
建築面積=547.25平米
延床面積=1008.79平米
竣工年=2002年(既存:1987年)
設計=設計 建築 藤木隆男建築研究所
構造=O.R.S.事務所
設備=IF設備計画 T.建築設備設計
施工=不破工業

施工プロセス/PROCESS
新耐震基準による建物であり、構造補強の必要は無かったため、改修の操作は表層と内装に集中している。ミラーパネル張りの派手な建物であったが、それを剥いでオリジナルのアルミパネル張りのシンプルな直方体のボディとした。そしてその表層を既存の開口部や建物のスカイラインに配慮しながら、縞の入ったメッシュスクリーンで覆った。「既存の外皮に一枚さらっと反物をかけたような操作で、新しい建物にすることを意識した。表現としては目をこらしてよく見ればもとのボディが透けて垣間見えるような性質に関心が集中していった」と藤木氏は説明する。それとは対照的に室内は木質や珪藻土の自然素材を使ったデザインとなっている。パチンコホールの天井高を利用して曲面天井に仕上げ、間接照明や空調によって穏やかな空間を実現している。また、積極的に自然採光を取り入れながらも、外装のメッシュスクリーンや穴あきブロック、ルーバーで適度な視覚操作を行なっている。これは患者のプライヴァシーを考慮した結果だ。「透析治療は一度の治療が長時間なうえに、その頻度が高い。そういう人達の移行をスムーズにし、なおかつ以前のオフィスビルを利用した治療スペースの問題点を解決するために、滞在しやすい空間設計を行なった」と藤木氏は説明する。
左上:リノベーション後平面図拡大/右上:同、断面図拡大
右下:メッシュスクリーン詳細図
拡大
現状/PRESENT
左上・右上:メッシュスクリーン越しに既存躯体や内部空間が透けて垣間見える外観
下:治療の準備作業の様子
■コメント
建築家が敷地探しから付き合っていくというケースはよく耳にする。しかし、この事例において、不動産会社と共同で、既存建物も含めたいわば「建物探し」が行なわれた。建築家の構想力が企画段階で有効に働らいたという点において、これは特筆すべきことであろう。「建築家もより源流に遡って、企画・計画に参画していくことができればおもしろくなるのではないか」と、藤木氏も言う。そして、一貫した流れのうえで、実際の設計段階においては院長の山川氏の治療スタイルを聞き入れ、リノベーションの有効性を活かしながら、患者にも好評の治療空間が実現された。これらのことから、京王八王子山川クリニックはリノベーションにおけるコラボレーションの意義と、建築家のスタンスの在り方を示す好例であると言えよう。
(村井一)
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