Renovation Archives [034]
城智也+信太洋行+西本賢二
●SOHO[事務所]《東日本橋再生プロジェクト
取材担当=西瑠衣子

概要/SUMMARY


建物外観

既存内観
ビルの空室率の高い地域である、東京・東日本橋の築10年ほどの事務所ビルの1フロアで、東京大学生産技術研究所の野城智也研究室の企画により、着脱可能なインフィルシステムの実証実験が行なわれた。
不動産物件としての投資が困難な建物は、通常仕上げや設備の陳腐化のために魅力が薄れて借り手がつきにくくなる。そこで本作品では、インフィルを動産化し、躯体との資産分離をはかることで短期間からでもユーザーが望む空間を実現し、利用価値を高めることを目的としている。また、インフィルをリース・レンタルで供給するビジネスモデルづくりをめざすものである。
この実験では、インフィルとして、キッチン、トイレ、バス・サニタリーの3つの空間ボックスユニットを導入、それらを着脱可能とするための配管システムと床・天井システムの考案がなされた。プロジェクトは1期と2期に分かれ、1期工事では2人の起業家が居住機能を共有するシェアリングタイプのSOHOに改装し、2期工事では、3つのボックスユニットを移設し、居住機能と事務所機能を併せ持つSOHOへのコンバージョンを行なった。
設計概要
所在地=東京都中央区東日本橋
用途=2階をSOHOに(以前は1〜3階事務所・4〜5階オ−ナ−住宅)
構造=RC造
規模=地上5階
専有面積(実験は2Fのみ)=88.39平米
竣工年=2003年3月〜2004年5月(既存:平成3年)
企画=野城智也・信太洋行・西本賢二(東京大学生産技術研究所)
設計=伊藤博之(伊藤博之建築設計事務所+O.F.D.A.associates)
生産設計=信太洋行・西本賢二(東京大学生産技術研究所)、谷圭一郎(東京ガス)
設備設計=大塚雅之(関東学院大学)、安孫子義彦・臼井政夫(ジェス)
インフィル・ボックス設計=眞田大輔・名和研二・波場將人(SUWA製作所)

既存内観
施工プロセス/PROCESS
インフィルシステムの特徴は大きく3つある。第一に、機能空間を組み込んだ独立したボックスユニットによるプランニングで、インフィルの更新や機能・グレードの変更は、ボックス単位で交換することができる。ボックスは隙間を空けながらフロア内に設置し、隙間はワークスペースやリビングスペースとして活用する。第二に、床システムの開発である。床下配管類を床パネルに吊ることでスラブから独立させ、床下配管類とインフィル部品を容易に着脱可能としている。第三に、圧送ポンプによる排水システムの導入で、床フトコロ寸法を有効寸法で125mmに抑えることができ、階高の低い既存建物にも適応することができる。画像は二期工事のプロセスである。
上左:第1期工事平面図拡大
上右:第2期工事平面図拡大
下左:矩計図【拡大
左:ボックスユニットによるプランニング
右:床スリーブ機能図
設備部品の配管・配線の分離 BOXユニットの解体
BOXユニットのベ−スフレ−ムの移動 配管・配線類の位置調整 各設備部品の配管工事
トイレBOXユニットの移動 BOXユニットの壁パネルの設置 圧送ポンプと配管スリ−ブ
左・右:BOXユニットの内部
現状:2004年/PRESENT
2期工事完成後
■コメント
2004年5月に1週間かけて、現状回復工事がされた。現状回復工事の概要は、インストールしたインフィルの撤去、既存天井同等品の設置、既存壁仕上げ同等品への張替え、クリーニングである。インフィルとスケルトンとの縁を切るだけでなく、内壁とも取り合わないため、ビル全体に伝達する振動や騒音を比較的低く抑えることができた。
野城研究室は、建物本来の用途機能を保持しつつ変容できるこの手軽さが、ビルオーナーや不動産業者への訴求ポイントになりうると考えている。また、居住者の要望や物件によって様々なメニューが必要になると考えられるが、更新を容易にするために、コストの内容を簡便にし、BOXユニットに寝室や高齢者用等の発展性を持たせ、短期で更新をすることに魅力ある仕上げにする必要があるだろう。
高付加価値の新しいビジネスモデルとして、今後の展開が期待される。
(西瑠衣子)
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