Renovation Archives [037] Frank la Riviere, Architect, 山代悟+ビルディングランドスケープ ●集合住宅[ワンルームマンション] 《Y-HOUSE》
取材担当=松下希和
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概要/SUMMARY |
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左:改修前正面外観/右:改修後正面外観 |
コンクリートの腰壁を取り外し、打放しのコンクリートに一部外部断熱材を施しただけの外観は、ほとんどオリジナルの躯体そのままの姿である。 |
■《Y-HOUSE》は、かつて8戸のワンルームマンションとして設計され、躯体工事終了後に、事情により放置されていたコンクリート躯体を、3戸の住宅にリノベートした建物である。敷地は東京の原宿、外苑前などが徒歩圏という人気スポットにある。施主が、自宅を建てるためにこの土地を購入したとき、本来上ものであるこのマンション躯体は不要物であり、取り壊す手間の分、土地の価値を下げるものですらあった。この計画は、土地の価値が建物のそれよりはるかに上回る都心において、新築のために躊躇なく建物が解体されるような状況で、あえてこの一度も使われていない躯体を利用することで解体費用を浮かし、工費の節約や工期の短縮を図ったケースである。 しかし、このプロジェクトの魅力はそのような効率面だけではない。土地と共に引き渡された躯体はまさに放置された廃墟のようであった。コンクリートの打ち放し壁も良好とは言えない状態だった。建築家はその躯体を覆い隠してしまうことはせず、目立つ箇所のみの補修にとどめた。そして、躯体にミニマルな改造を施し、家具のようなインフィルを加えることによって、用途の変更と豊かな住空間を実現させた。その操作はリノベーションというよりは、既存の躯体に対するインターベンション(介入)と呼ぶに相応しい。 |
設計概要 ●所在地=東京都渋谷区神宮前 ●用途=集合住宅 ●構造=鉄筋コンクリート造 ●規模=地下1階、地上4階 ●敷地面積=203.56 平米 ●建築面積=124.74平米 ●延床面積=466.01平米 ●竣工年=2004年10月 ●設計:Frank la Riviere, Architect 協力設計事務所:山代悟+ビルディングランドスケープ ●構造:佐藤淳構造設計事務所 ●設備:小熊理陽 ●施工:丹青TDC |
施工プロセス/PROCESS | ||
■内部の壁は主に構造体であるため、プランニングは構造計算によって撤去可能な壁を限定することから始まった。幸いオリジナルのマンションのプランもメゾネットや、吹き抜けを含んでいたため、いくつかの壁を取り払うことで、主住宅部分につながりのある大きな空間が作られた(破線部が撤去された躯体壁を示す)。 | ||
上左:2階平面図【拡大】 上右:3階平面図【拡大】 下左:4階平面図【拡大】 |
現状/PRESENT | ||
ダイニング・キッチン |
居間 |
躯体には同素材でループ状に床/壁/天井を覆う帯状の要素を挿入することで新しい住空間が作られた。「ループ」の素材はそれぞれ主要な部屋の機能やテーマに合わせて固有のものが選ばれた。リビングはスチール、ダイニング・キッチンは竹材、主寝室はダークな塗装を施したタモ材、そして子供部屋はデニム素材が使われている。 竹材「ループ」のダイニング(左)とスチール「ループ」のリビング(右)。施主がセレクトしたドラマティックな照明が「ループ」の作り出すステージ空間に映える。 |
150ミリ浮かせた居間の床面【拡大】 |
断面詳細 |
「ループ」は配管スペースとしても使われているため、床から150ミリ浮いており、また窓や壁の手前で止まっているインフィルとして表現されている。「ループ」は床/壁/天井の仕上げでもあるが同時に一部が盛り上がることにより、寝台になったりカウンターになったりする。ここでは建築の仕上げも家具も同じようにフレームにセットされたステージとして扱われている。 |
主寝室 |
工事中写真 |
タモ材「ループ」の主寝室、改修中と改修後。意図的に晒された、補修された打ち放し壁や、一部の荒々しいはつり跡がこの建物のプロセスを物語り、空間に新築にはない時間の層を与えている。 |
■改造前の建物と、行なわれた改造部分が継ぎ目なく溶け合うコンバージョンではなく、既存建物に新しい要素をオーバーラップするように挿入する手法は、主に既存建物に価値がある歴史的建造物などのリノベーションに有効である。だが《Y-HOUSE》では、その手法をそれ自体特殊でないマンションのリノベーションに選んだことで、ビルディング・タイプを超えた不思議な調和を生んだ。そのうえ、インフィルの「ループ」は、添加物であるゆえに、追加・変更が容易で、これから住み手と共に発展していく空間の変化に柔軟に対応できる利点がある。《Y-HOUSE》は、巧妙に選ばれたインターベンションという、リノベーションのひとつの手法の大きな可能性を提示している。
(松下希和)
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