Renovation Archives [040]
株式会社NTTファシリティーズ+リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ジャパン(既存:吉田鉄郎)
●商業施設[電話局] 新風館
取材担当=新堀学

概要/SUMMARY

設計概要
所在地=京都府京都市中京区
用途=商業施設(以前は電話局)
構造=既存棟:鉄筋コンクリート造、増築棟:鉄骨造
規模=地下1階地上3階
敷地面積=6,385平米
建築面積=3,381平米
延床面積=8,233平米
竣工年=2001年(既存:1923年)
所有者=NTT都市開発株式会社
総合プロデュース=NTT都市開発株式会社関西支店
マーケティング・MDリーシング=株式会社アイ・エル・シー+株式会社天音
設計・監理=株式会社NTTファシリティーズ+リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ジャパン
ライティングデザイン=内原智史デザイン事務所
音響・映像・吊物機構・舞台照明=P4
施工=清水建設株式会社京都営業所
《新風館》は、吉田鉄郎設計による1923年竣工の旧京都電話局(83年に京都市の登録文化財第一号に指定)の商業施設へのリノベーション物件である。所有者であるNTTグループの中で進められている通信施設のグランドデザインや、姉小路、烏丸通りの交差する立地の性格から、10年間の暫定施設として計画された。
新しい構造を付加することと、既存の建物の持ち味を最大限に活かすこととのバランスを取りつつ、建物の暫定使用というプログラムもあわせもつ好事例と言えるだろう。

上:烏丸通側の外観。ほぼオリジナル
下:烏丸通側の外観。増築されたアプローチ
施工プロセス/PROCESS
ここで行なわれた操作は、以下のものである。
・RC耐震壁増設による耐震改修
・敷地の余白に設置された別構造体のアプローチ
・外壁のポリカーボネート材によるカバー
・防水層の新設
・床レベルの変更による床下設備スペースの確保
・窓から店舗入り口への変更による建具の更新
・他外観補修など

プランニングとしては、L字型の既存棟にコの字型の増築棟をロの字型につなぎ、中央に歩廊をめぐらせ各店舗のアプローチとしている。
10年間の暫定施設というプログラムから、付加部分はどちらかといえば軽い構造体として扱われ、既存部分との附合もまたデタッチアビリティや更新性を考慮して計画されている。
上左:1階平面図拡大
上右:2階平面図
拡大
下左:3階平面図
拡大
下右: 断面図拡大
左:内部。上げられた床レベル、突き当たりの耐震壁/中:内部。設置された耐震壁/右:歩廊。別構造
下左:本体とは構造的に切られたエントランスのキャノピー
下中:キャノピーのあるサブエントランス
下右:外壁のディテール
現状/PRESENT

左:中庭俯瞰
右:中庭

左:増築棟の外壁と既存棟の外壁
右:姉小路側エントランス
左上:エントランスから中庭へLevel+1m
左下:銘板
右:烏丸通エントランス
■コメント
残されたものと新しく作られたものを構造種別を変え、きちんと構造的に切り離すことで明確に表現するところは、リノベーションの作法というものがあるならばまさに定石どおりの作法だと言えるだろう。更新可能なものを鉄骨造にしている点も、構法の選択として無理がない。むしろデザインの意味論的にも妥当である。
また中心市街地に近い立地というリソースの活かし方、そしてパーマネント性がない点についてもここでは、商業性が有効なプログラムとして導入されていると言えるだろう。
吉田鉄郎の建築は、かつてのオフィス建築のまさに王道をいくものであり、同様な構成の建築は東京、大阪などの大都市に散見される。一例としてはかつての丸ビルもそういったビルディング・タイプに区分けされるものであった。
その丸ビルの現況と比較すると、立地の条件にも恵まれたと言えるだろうが、オリジナル部分の意匠をできる限り尊重した保存のオーセンティシティと、立地リソースの活用による建築自身のサステイナビリティのプログラミングの両面から解答が導き出されているということがよく理解できる。
幸いなことに、地域の人々の利用も好調ということであり、今後もこのような企画が一般化するきっかけになると日本の都市も面白くなるのではないだろうか。
(新堀学)
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