Renovation Archives [047]
KION STUDIO+さくらや
●商業施設[旅館] 《さくらアパートメント》
取材担当=村井一

概要/SUMMARY

設計概要
所在地=愛知県名古屋市
用途=商業施設
構造=木造 鉄骨造
規模=地上4階建
企画=KION STUDIO+さくらや

■集客力が減った旅館の転用事例である。平成13年に「さくらや旅館」は、クリエイターによる商業施設、「さくらアパートメント」として再スタートを切った。
いまから8年程前、不況の影響や、ホテルの利用形態の変化によって、名古屋の中心地に立地しながらも、さくらや旅館は大変厳しい経営状態にあった。現《さくらアパートメント》オーナーで、当時旅館さくらやの代表を務めていた三浦英二氏はこのままの旅館業では経営を続けるのは難しいと感じ、業態の転換の必要性を感じていた。当初はレストランへの旅館のまる貸しや、近隣の商業施設のストックルーム、SOHOなどへの転用を検討したが、解決には至らなかった。ちょうどその頃、さくらや旅館近辺に大型商業施設がオープンし、すでに大きな集客力を持っていた白川大通り沿いのエリアからさらに人の流れが生まれていた。また、旅館さくらやの手前には一軒の古着屋ができ、それまであまり人が入ってくることもなかった路地にも若者の姿が見られるようになった。このような変化を三浦氏は敏感に感じ取っていた。

限られた投資のなかで三浦氏のとった選択は、個性的な店のために旅館を小貸しにする計画だった。そして当初の転用計画を相談していた店舗デザイナーやレストランオーナーから、コーディネーターの稀温氏を紹介される。旅館の現状を確認した後、稀温氏はさまざまなインテリア写真を貼付けた一枚のスクラップブックで、空間のイメージが提示した。「既存の建物の構成を活かして、いろいろな個性が同居する空間になれば面白いのではないかと思った」という。稀温氏はその3年前から、クリエイターの作品を展示・販売するイベントを主催しており、その経験を活かしてテナントが集り、かつ自発的な運営がなされるような条件設定のアドヴァイスをした。また実際に希望者も集めてきた。
上:リノベーション後外観
奥に見える2階建ての建物が本館、手前の4階建ての建物が新館。路地によって奥まったアクセスとなっている
下:同、内観
新館の廊下
施工プロセス/PROCESS

展示スペース(かつての宴会場)の様子
■全体的に大掛かりな改修は行なわれていない。内装は各部屋ごとに出店者が自己負担のもとに大工に依頼したり、セルフビルドするなどして、改修されている。現状復帰のルールが緩やかなため、前の出店者の痕跡を残しながらリノベーションが重ねられることもあるという。木造2階建ての本館は趣向を凝らした既存の造作がそのまま残されており、かつての客室は店舗として、宴会場は一週間単位のレンタルスペースとして利用している。鉄骨4階建ての新館はエレベータ、階段、トイレの共用部をそのまま利用しており、廊下天井板の撤去と塗装、畳張りだった客室を床張りにしたり、鉄製扉をガラス張りにするなどの変更が行なわれている。
現状/PRESENT

左上:店舗の一例
左下:ボックスショップの様子
右上:本館の様子
■この春でオープンから4年目を迎える。入れ替わりはあるものの、《さくらアパートメント》には個性的なお店が集っている。新館1階の体験店舗は利用待ちが出る人気ぶりだという。出店者による自治会もでき、毎年4月には周年記念の「さくらまつり」が開催されている。
かつての旅館さくらやは、かたちを変え、自律性あるサービス業として再生した。このリノベーションの鍵は大きく2つ考えられる。まずは、奥行きのある路地と、旅館の空間構成を活用できたこと。これは三浦氏が国内の賑わいのある街を何カ所も訪れ、見い出した空間活用の可能性によるところが大きい。もうひとつはテンポラリーに顕在化していたクリエイターのネットワークをその空間にマッチングできたこと。これは参加者1000人をこえるイベント運営を行なっていた稀温氏の手腕と、出店者個々の力によるものである。
そして、これからもまた、さくらアパートメントはさまざまな人が関わりながらリノベーションされ続けていくであろう。
(村井一)
Archives INDEX
HOME