Renovation Archives [048]
松葉力+田島則行+テレデザイン
●事務所・共同住宅のコンバージョン 《c-MA3》
取材担当=村井一

概要/SUMMARY

■バブル期に建設されたものの、使用されずに放置されていた建物の改修である。c-MA3とはConversion-MotoAzabu-no.03の略でIKDSによる《c-MA1》と一連のシリーズをなすものである。既存の建物は2棟で、総合設計制度によって公開空地が確保されており、建設当初の用途は、公衆浴場、診療所、住宅、美術館などであった。バブル崩壊後、事業収支が見込めないため、放置されていたが、付近の六本木ヒルズ再開発などによってエリア価値が向上し、近年では賃料収支が見込める状況になってきた。この建物に目をつけたのは住宅を中心にコンバージョンを手がけているリプラスで、建物の取得にあたって企画設計の相談がテレデザインにもちかけられた。放置されてはいたが、建物が新しかったかったため躯体補強の必要がなかった。そこで、インフィルと外構を中心とした改修が提案された。
左:リノベーション前外観 撮影=長嶺写真事務所
右上:リノベーション後外観 撮影=新良太
設計概要
所在地=東京都港区
構造=SRC造
規模=地上8階 地下3階 棟屋1階 (c-MA3)、地上5階 地下3階 (c-MA3 Residence)
敷地面積=1274.44平米 (全体)、699.12平米 (c-MA3)、575.32平米 (c-MA3 Residence)
建築面積=715.20平米 (全体)、434.66平米 (c-MA3)、280.54平米 (c-MA3 Residence)
延床面積=4693.95平米 (全体)、2968.65平米 (c-MA3)、1725.30平米 (c-MA3Residence)
竣工年=2005年1月
企画=リプラス ホフ事業部
設計・監理=松葉力+田島則行+テレデザイン
施工=藤栄建設
ランドスケープデザイン=オンサイト
構造=佐々木仁
設備=テーテンス
家具=カッシーナ・イクスシー
キッチン=エス・エス・アイ

施工プロセス/PROCESS

左上=B棟1-3階平面図
左中=B棟4階平面図
左下=B棟5階平面図
右 撮影=新良太
■既存の住戸プランは一戸あたり100平米を超えるもので、借り手の見込みがつきにくかった。そこで一旦インフィルを撤去し、既存の共用部やパイプスペースやスリーブを利用しながら、60平米中心の住戸に再構成された。企画設計段階では解体前であったため、配管の詳細な位置などは予測にもとづいて設計しなければならなかった。そのため「建物の縦と横の通しを見越しながらの、パズルのようなプランニングであった」とテレデザインの松葉力氏は振り返る。総合設計制度によって外部には公開空地が確保されていた。2棟の建物に一体感を与え、都市の流れを引き込むため、外構を張り替え、天井にルーバーを付加し、「アーバンコリドー」という通り抜け空間を創出した。また、構造上必要のない壁についてはエントランス部と地下において一部撤去し、空間構成を変化させている。法規上の用途変更はなかったために確認申請は不要だったが、総合設計制度の変更届が必要であり、例えばピロティに付加したルーバーも天井高の規制をくぐりぬけてデザインする必要もあった。
左:パズルのようなプランニング/右:修復された外構 撮影=新良太 
左:天井のルーバー/右:アーバンコリドー
現状/PRESENT

左上:アクティヴな住空間 撮影=新良太
左下:モバイルファファニチャーによってアクテヴィティを誘発する 
撮影=新良太
右上:エントランス 
撮影=長嶺写真事務所
■このプロジェクトにおいては、リプラスをはじめとして、複数の専門家がそれぞれの方向性から可能性の検討を行なった。それは地の理から人のアクテヴィティまで、総合的な読み取りに基づく、建物の最適化作業といえるのではないか。そのなかで、建築家としての介入の在り方について、「いまある建物のポテンシャルを引き出すために、空間やアクティヴィティの操作によって事業性の骨格がつくりだせるのではなか」と松葉氏は語る。実際にこのプロジェクトにおいてはテレデザインによるプラン検討の後、建物の取得に踏み切っている。また、具体的な用途についても既存の設備仕様や、空間性を考慮して決定されている。
再構成された住戸はシビアな条件をくぐりぬけながらも、多様なプラン展開となっている。アーバンコリドーは、六本木の街に新たな魅力を提供するであろう。新しく動き出した《c-MA3》の今後に注目したい。
(村井一)
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