Renovation Archives [065]
ヤマガタ蔵プロジェクト
●カフェ・バー、ギャラリー
[蔵]
《蔵 オビハチ「灯蔵」》
取材担当=出口 亮(東北大学大学院)
概要/SUMMARY

左:改修前の建物外観
右:現在の建物外観
提供=ヤマガタ蔵プロジェクト
■蔵をカフェ・バー+ギャラリーへとリノベーションした事例である。
敷地となる山形県山形市では、明治時代に大火へ備え、また当時の経済政策などによる要請から盛んに蔵が建てられてきた。その多くは荷蔵として作られており、その役割から街並みに現われているものは多くないが、市街地で約150棟、市全体で約400棟と数多くの蔵が現存している。しかしそれらの蔵は、区画整理、生活様式の変化、蔵の老朽化や高額な維持費などの問題から、取り壊されたり空き蔵となったりする傾向にある。
2002(平成14)年、東北芸術工科大学の学生を中心に立ち上げられた「ヤマガタ蔵プロジェクト(以下=蔵プロジェクト)」は、それらの空き蔵を市民や学生のための表現・憩い・集いの場として捉え直し、まちに再生させる試みを始めた。その第一歩として再生されたのが《蔵 オビハチ「灯蔵」》である。
《蔵 オビハチ「灯蔵」》は、1921(大正10)年前後に米や肥料などの荷蔵として建てられ、2度の曳舞(建築物を解体せずにそのまま水平移動させて、ほかの場所に移すこと)を行ない、1960(昭和35)年前後に現在の位置へ移った。その後は物置小屋として使われていたが、区画整理により家屋と蔵のあいだを裂くように敷地内に道路が通ることとなり、蔵が孤立することからも一時は蔵を解体する計画の話が上がっていた。しかし蔵プロジェクトとの共同により2003(平成15)年、学生を主体に市民や職人の手によって改修され、カフェと付随するギャラリーで展示やワークショップ、ジャズライブなどさまざまなイヴェントを期間限定(5月-6月)で開催した。その後さらに改修を行ない、現在はカフェ・バー、ギャラリーとして活用されている。
上:改修前の2階部分内観。2度目の改修時に床が一部抜かれ、吹き抜けとなる
中:1度目の改修後の1階内観。手前にある階段が縦動線となる。奥にあるカウンターは学生による手作り
提供=ヤマガタ蔵プロジェクト
下:1階吹き抜け部分よりカフェカウンターを望む。縦動線が中央に移る
筆者撮影
設計概要
所在地=山形県山形市十日町3-1-43
用途=カフェ・バー、ギャラリー(以前は蔵)
構造=木造
規模=地上2階
敷地面積=382平米
建築面積=67平米
延床面積=111平米
竣工年=2003年(既存:1921年前後)
企画=ヤマガタ蔵プロジェクト


施工プロセス1/PROCESS 1
《蔵 オビハチ「灯蔵」》の改修は2003(平成15)年に2度行なわれている。
1度目は蔵プロジェクトの期間限定イヴェントに向けて学生が中心となり行なわれたもので、電気・水道等のインフラ整備と、壁や屋根の補修といった最小限の改修であった。このときには、左官・造園・外構工事などは業者によって行なわれたが、大掃除、内部の壁の補修や外部トイレの施工、そしてイヴェント時の家具や食器の作成などは学生の手によって行なわれた。
上左:改修前の1階平面図
上右:改修前の2階平面図
下右:改修前の1階内観。大掃除の様子
提供=ヤマガタ蔵プロジェクト
左:改修途中の外観。漆喰部分の補修工事の様子
右:山形工科短期大学の学生が行なった外部トイレ施工の様子
提供=ヤマガタ蔵プロジェクト
左:改修途中の内観。学生の手による家具が運び込まれる
右:2003年の期間限定イヴェントの様子
提供=ヤマガタ蔵プロジェクト
施工プロセス2/PROCESS 2
1カ月間のイヴェント後、蔵主はそこで根付き始めた活動を定着させようと、カフェ・バーとしての長期的な営業に向けてさらに改修を施した。ここで大きく変わったのは、2階への階段を中央に移しそれに応じるように吹き抜けを設けたことである。これによって、1階のカフェおよびテンポラリーにステージとなる吹き抜け部分と2階ギャラリーがひとつの連続する空間となり、さらにこの蔵独特の1.1mという短いスパンの柱によって空間の一体感がより引き出されている。また、営業開始後には2階部分が頻繁に使われるようになり、補強が必要になったため大梁を加えている。
左上:改修途中の1階内観。中央に設ける階段が運び込まれている
右上:改修途中の2階内観。床が抜かれ、吹き抜けとなっている
左下:改修後の1階内観。カウンターが新しく設置されている
提供=小嶋商事株式会社
現状/PRESENT
上左:定期的に行なわれているジャズライブ
上右:2階にあるギャラリーで行なわれた「wool works exhibition 大野絵美展」
下左:蔵プロジェクトの活動「蔵ツアー」
提供=ヤマガタ蔵プロジェクト
■蔵プロジェクトの学生によって再生された《蔵 オビハチ「灯蔵」》は現在、カフェ・バーとして運営されながら、定期的なライブを行なったり、地域内外のアーティストの作品を展示するなど、地域に対して開いた活動を行なっている。また、蔵プロジェクトは再生後の活動として、本事例を含めた5つの蔵を交えた17日間の合同イヴェントを行なったり、活動への理解促進を目指し、フリーペーパーの発行や蔵巡りツアー、蔵主会議など継続的な市民への働きかけを展開している。そのなかで《蔵 オビハチ「灯蔵」》はそれらのイヴェント時の基点となり、蔵プロジェクトと市民をつなぐプラットフォームとしての役割を担っている。このような地域への貢献から本事例は、「国土交通省大臣表彰 平成15年度手づくり郷土賞」を受賞している。
これまで山形では、数多くの蔵が存在しているにも関わらず、それをまちの資源として活用とする意識は低かった。しかし、蔵の持つ空間をうまく引き出した《蔵 オビハチ「灯蔵」》の再生や蔵プロジェクトの継続的な活動によって、人々の意識が少しずつ変わり始めている。
(出口 亮)
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