Renovation Archives [073]
徳田剛、市川徹
●カフェ、ギャラリーを中心に、ワークショップ・シンポジウム・ミーティング会場等
[クリーニング店+住居]
《Wi-CANP》
取材担当=渡辺ゆうか
概要/SUMMARY
設計概要
所在地=千葉県千葉市栄町24−7
用途=カフェ、ギャラリーを中心に、ワークショップ・シンポジウム・ミーティング会場等(リノベーション前は、クリーニング店+住居)
構造=木造
規模=地上2階
敷地面積=65平米
建築面積=50平米
延床面積=78平米
竣工年=2005年9月(既存:築約70年)
企画=Wi-CAN2005 アートセンター班
設計=徳田 剛、市川 徹
施工=徳田 剛、市川 徹、千葉大学工学部デザイン工学科建築系有志、Wi-CAN学生メンバー


■今年で3年目を迎える《千葉アートネットワーク・プロジェクトWi-CAN》の拠点地的役割を担ったアートセンター《Wi-CANP》が、2005年8月下旬、千葉市中央区に位置する栄町商店街元クリーニング店兼住居を改修してつくられた。栄町商店街は京成千葉駅、国鉄千葉駅の双方の利用者により賑わいを見せていたが、60年代の両駅移転、その後の新国鉄千葉駅(現JR千葉駅)前(旧京成線跡)への大型デパート出店、さらに千葉銀座商店街がつくられたことで、同商店街の衰退は拍車をかけて進んだ。現在は、韓国をはじめとするアジア系の店舗が目立ち、その界隈には多くの性風俗店が軒を列ねる地区となっている。
このような状況に一石を投じる運動として、アートセンター《Wi-CANP》は設立された。この活動の母体となるプロジェクト《千葉アートネットワーク・プロジェクトWi-CAN》は、千葉大学教授長田謙一氏が発起人を務め、千葉大学普遍教育科目「文化をつくる」という授業でプロジェクトを通じて単位が取れるとともに、千葉大学芸術学研究室、千葉市内の美術館、まちづくりNPO、福祉機関などによって、地域と人とアートプロジェクトを介してさまざまな可能性を問うことを目的とした活動である。
千葉中央サイト、佐倉サイト、里山サイトとそれぞれの地域別で企画が展開されている《Wi-CANP》が、各サイトのプロジェクトをまとめる機能も兼ね備え、より地域に根をはったネットワークづくりの拠点となっている。
施工プロセス/PROCESS
耐震性を確保する為に柱2本は地元の大工によって入れ替えはされているが、基本的には《Wi-CAN》のメンバーのセルフビルドで改修している。カフェ、ギャラリーのほか、ワークショップ、座談会、シンポジウムなどが限られたスペースで開催されることを配慮し、躯体に手を加えずに床、壁だけを工事の対象とした。水平面には木材を使用し、壁などの垂直部分は白というシンプルなルールに従って行なわれた。商店街の歴史の痕跡として、以前のクリーニング店は道路拡張の際にそのままセットバックした住居と道路の間に設置されたものであり、店鋪内に基礎部分があるという状況であった。その点を活かして、商店街から入ると地上面は土間的空間として成立している。圧迫感を取り払い、2階との空間を繋げる為に、1階天井の一部を取り払い、吹き抜け空間としている。
左:1階平面図
右:2階平面図
左:断面図
右:工事前1階住居として使用されていた
左:工事前。7年間このようにシャッターがおりた状態だった
右:工事中
左:工事前の店鋪内は、道路拡張の時にセットバックしてできた空間であった
右:工事中店鋪。基礎と店鋪部分の段差をつなぐ階段が取り付けられている
左:工事前2階住居
右:工事中2階部分。床が取り払われている状態
現状/PRESENT

左:2階ギャラリー部分
右:工事後住居部分。奥にカウンターが見える
左:正面から内部を見る
右:吹き抜け部分
左:シンポジウム風景
右:1階は内部の段差を活かした空間となっている

シンポジウム風景

商店街の方とのシンポジウムの様子

駄菓子を用いたワークショップ風景

2階部分から1階のシンポジウムを眺める参加者たち
■この事例の一番の特徴は、なんといっても商店街の路面店の並びに位置するという状況である。韓国料理店やシャッターが下りた店鋪を通り過ぎ、何気なく歩いていると、突然ワークショップや、座談会、シンポジウムなどをやっている状況が、そのままショウウィンドーを覗きこむように見る事ができるのである。美術、大学、まちにしても、それぞれの間になにか特別な敷居のようなものがあるのは否めない。
《Wi-CANP》はけっして敷居を取り払うというわけではなく、社会の中に隙間を作るという意識で活動をしている。つまり、いかに敷居を取り払うかではなく、むしろその敷居の存在さえも疑う意識で物事を捉えた時にできる状況だと言える。さらに、ここは誰でも自由に出入りすることができる。そうした隙間の広がりがひとつの道となる可能性もある。現に栄町通り商店振興組合も、アートの事はわからないが、若者が出入りする事でなにかの活力を見い出すものとして、好意的にこの状況を受け止めている。そういった意味でも《Wi-CAN》活動のテーマとして挙げている日常性に「隣り合った」関係を、《Wi-CANP》はうまく空間化しているものだと言えるだろう。
シャッター街の一角の出来事だけで終わらせずに、街も人もどんどん巻き込み、突き進んでほしい。商店街全体に影響を広げることは簡単ではないが、《Wi-CAN》だからこそできるさらなる展開を期待したい。
(渡辺ゆうか)
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