Renovation Archives [087]
●シェアード型コレクティブリビング[古民家]
《松陰コモンズ》
取材担当=新堀学
概要+プロセス/SUMMARY+PROCESS
設計概要
所在地=東京都世田谷区
事業主=NPOコレクティブハウジング社
構造=木造
規模=地上2階
建築面積=約180平米
延床面積=約230平米
既存=築150年(伝)木造家屋

以前の松陰コモンズ外観
松陰コモンズウェブサイトより


敷地の分割
提供=NPOコレクティブハウジング社
■古民家を活かす人々
2001年、NPOコレクティブハウジング社のメンバーと地主のSさんが出会う。Sさんの相続を契機に、コレクティブハウジング社は母屋向かいの庭を含む土地でコレクティブハウスを実現することを検討していたが、単独での建設は断念。庭には、緑を活かしたコーポラティブ住宅が計画されることになった。しかし、コレクティブハウジング社は、この母屋の再利用を提案。複数人で居住しながら、座敷を地域に開いて活用することをSさんに提案し、松陰コモンズプロジェクトがスタートした。NPOコレクティブハウジング社がS氏より一括で借り上げ、居住者に転賃貸している。6名でスタートした共同生活は、
数名の入れ替えを経て現在7名の共同生活となっている。
パブリックコモンスペースでは、毎月一回「お座敷カフェ」という誰もが訪れることのできる機会を設けたり、イベントを実施し、地域とつながる暮らしの基点となっている。また、障子貼り、壁塗りをはじめとするワークショップなども実施。お座敷にはご近所の人たちも訪れ、地域に根付きつつある。

左:お座敷カフェ
右:カフェの模様
松陰コモンズウェブサイトより
現状/PRESENT
上:3つのスペース区分
下:1階・2階平面図(イラスト=あわたさちこ)
松陰コモンズウェブサイトより
パブリックコモンの大広間
筆者撮影
■コモンという価値
現在の松陰コモンズは、大きく三つのスペースからできている。居住者の個室である「プライベート」、居住者の食堂、浴室、トイレ、などの共有スペースである「プライベートコモン」、そして、地域にも開放される「パブリックコモン」である。ゆったりとした古民家の、間取りの多い空間、そしてハレとケの奥行きを活かして、これらの空間のヒエラルキーを使用形態によって作り出している。特に、パブリックコモンは、地域と居住者の生活とのバッファーゾーンとして有効に働いている。
ここでの生活のキーワードのひとつとして「ネットワーク」という言葉が使われている。これは、居住者同士のネットワークであると同時に、居住者と地域、あるいは建物を介した人々のネットワークである。そういったネットワークを胚胎するための空間がこの松陰コモンズの二つの「コモン」だということができるだろう。
「プライベート」と「パブリック」の二つでオン・オフするという二元的な生活スタイルに、「コモン」という概念、およびその空間が介在することで、プラスアルファ以上のふくらみが生じる。
居住者は「新しい家族なのではなく、共同生活なのだ」ということを語っていた。それは、「家族」という言葉が前提としているプライベート対パブリックという対立項的な概念に対して、「コモン」のもつ広がりを介してつながっているということを意識して強調したかったのではないかと思われる。実際に、この「コモン」という概念や空間がプライベートの拡張や、「パブリック」の細分化であったとすれば、おそらくそのどちらかに吸収されてしまうであろう。しかし、ここではそのどちらでもない場所として息づいていることが、活動の経過にも示されている。
「コモン」という概念や、空間をどのように形成し、使い続けていくのか、またそれをどのように意識化していくのか。現時点では原則となる計画論はまだ見えていないが、この松陰コモンズをはじめとして、これまで見てきたアーカイブスのいくつかの事例のなかに、その萌芽は見て取れるのではないだろうか。
(新堀学)
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