Renovation Archives[100]
●ギャラリー兼アトリエ
[ショッピングセンター]
東京藝術大学《井野アーティストヴィレッジ
取材担当=渡辺ゆうか
概要/SUMMARY
設計概要

所在地=茨城県取手市井野団地3-16
用途=事務所
構造=RC造2階
・一棟:全7戸
・一戸あたりの占有面積:132.92平米
・1階:74.9平米
・2階:58.02平米
竣工年=2007年12月
企画=東京藝術大学
設計=東京藝術大学
施工=UR都市再生機構/東京藝術大学

上:外観
下:配置図
拡大
資料提供:UR都市機構
高度経済成長期(1969[昭和44]年)に建設された大型住宅団地内の旧ショッピングセンターの一棟を、若手作家のための共同アトリエ施設へと転用した事例である。
茨城県取手市にキャンパスのある東京藝術大学先端芸術表現科の授業で、市内をリサーチした学生により報告された井野団地内に残るシャッター街。同科の渡辺好明教授は、施設取り壊しの計画を知って、指定管理機関であるUR都市機構へ若手作家支援を目的とした空き店舗活用計画を提案した。
もともと取手市は、1999年の先端芸術表現科開設以降、TAP(取手アートプロジェクト)などの文化芸術による地域活性化事業を積極的に行なってきた地域でもある。今回の事業も、同大学が掲げる学長プロジェクト「地方自治体との連携による芸術家村構想」や、取手市が進める一連の政策支援のもとに成立し、UR都市機構の協力を得ることができた。計画から約一年半の交渉、準備を経て、2007年12月、7つのスタジオ、31人の作家が拠点を構える「井野アーティストヴィレッジ」が開館した。
施工プロセス/PROCESS
BankART桜荘 BankART桜荘 外装、水道、ガスなどの配管は、家主としてUR都市機構が整備し、内装工事は東京藝術大学側が負担。外観イメージはヴィヴィッドな赤い塗装で一新しており、部屋番号を示す看板で全体を統一している。構造上の大きな操作はなく、むしろ躯体以外の余分な内装や設備は徹底的に取り除かれている。1階は、梁やコンクリート、配管がむき出しのスケルトンのまま入居者に貸し出されている。間口6.3mのエントランス部分は、工事現場の足場などに使用される単管パイプとポリカーボネート製透明仮設用フェンスを用いたシンプルなもの。2階部分は、構造上問題のない壁、ふすま、扉は取り払われ、白く塗装。24時間利用可能としているが居住が目的ではないため、湯沸かし器等の設備は設置されていない。使用時には、シャッターを常時開放しておくことが入居者に義務づけられている。
BankART桜荘
BankART桜荘 上左:工事期ファサード
上右:施工時ファサード
中:立面図
拡大
資料提供=東京藝術大学
下:平面図
資料提供=東京藝術大学
BankART桜荘 BankART桜荘 左:外観正面:全室バルコニー付きのメゾネットタイプ
右:エントランス部分
BankART桜荘 BankART桜荘 左:1階内観
右:2階内観
現状/PRESENT
Landmark Project ll
左:展示風景。広場で遊ぶ子供、行き交う人がよく見える
右:展示風景。荒々しい壁と作品が調和している
無音花畑
Landmark Project ll
展示風景。暗室として利用された1階ストックルーム
無音花畑
2階ベランダからみた中央広場
Landmark Project ll 無音花畑
左:中央広場からの外観
右:井野団地
資料提供=UR都市機構
特記なきものすべて筆者撮影
■「オールドベッドタウン問題」と呼ばれる、1980年以前に建設された大型住宅団地が抱える、住民の高齢化、孤独死、建物の老朽化、地域衰退などの現象は各地で深刻化している。本事例は、団地再生と芸術家育成支援という二つの役割を担うことで、さまざまな相乗効果を見込んだ意欲的なプロジェクトだ。
井野団地においては、規模、事業体制などの関係性から幅広い発展が期待できる。最大の特徴は、東京藝術大学が計画を先導し取手市がUR都市機構との仲介役を務める、といった運動体として機能していることだ。藝大は外内部との交流をコーディネイトし、UR側は一棟7店舗全面改修、一戸あたり月額61,000円ほどの破格の家賃で貸出している。アーティストヴィレッジそのものの成果も、大学やTAPなどのイヴェントを通じて充分期待できる。発展の焦点といえば、少額でも運営資金を賄えることができるコミュニティービジネスの有無だといえる。2,166戸、5,000人以上が暮らす団地住民や来場者のニーズをどう見出し、どう展開させていくかだ。
開館を機に、関係者から高齢者や来館者のためのカフェを立ち上げたいとの要望があり、UR都市機構でも関連施設の空き事務所などの提供を検討しているという。団地内で借り手がつかない100あまりの空室も、特有の地域ストックになりうる。まだ狼煙が上げられたばかりのプロジェクトだが、取手が今日までに培ってきた人材、知的財産、ネットワークを活かし、芸術文化活動を軸とした団地再生事業の先駆的なモデルケースとして注目していきたい。
(渡辺ゆうか)
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