プロローグセッション
●さらなるリノベーション1――ホテル、倉庫
ここからが「さらなるリノベーション」です。もともと私どもの会社のテーマは、リノベーションをやりたかったわけではなくて、先ほど言いましたようにいろいろな住宅の選択肢を広げていきたいんですね。そのなかの手法のひとつであるリノベーションというのがどんどん発展していきつつある状況だと思っているんです。

昨年、都市デザインシステムという会社がプロデュースして、東京の目黒にできました「ホテルCLASKA」というホテルがあります。もともと「ニュー目黒」というビジネスホテルだったんですが、新しいタイプのホテルにリノベーションされたわけです。ここはホテルといいながら、客室は数室しかなくて、サービスアパートメント――こちらではレジデンシャルとよく言いますが――といって、リネンサービスやルームサービスがある居住タイプの部屋が多くを占めます。このスタイルは東南アジアに行くと普通にみかけるものですね。日本ではこれまで、ホテルか賃貸住宅かしかなかったけれども、東京は結構こうした形式の、中間的なものがリノベーションされて出てきています。大阪でこのマーケットがあるのかというと、結構案件がもちこまれてくるんですけれども、まだ未知数です。

 fig.47
fig.47は大阪の下町でリノベーションして倉庫の中にこういう箱を挿入したという例です。
例えば陶芸やっている人が窯入れて焼くのに寝泊りしながらやるように、倉庫の中で作業しつつ寝泊りもできるようにしたわけです[fig.48]。このリノベーションは、20年ほど前に観た『フラッシュ・ダンス』というアメリカの映画をヒントにしています。この映画は倉庫をダンスしたり寝泊まりする場としてコンバージョンしていましたが、私にはそれがすごく印象に残っていて、当時から倉庫に暮らすというのは本当にありやなあと思っていたわけです。
 fig.48
このリノベーション物件はすぐに借り手がいて埋まりました。その後は入居していた方が出ていったので、今はゲストハウスというか、短期貸しでやっています。だからもし皆さんが大阪にこられて、こんなところに泊まってみようかなという方がいらっしゃいましたら、マットとか布団も用意していますので是非(笑)。1泊1万2000円ですが私に言うてくれたら8掛けくらいで(笑)。一応2泊以上からですけど、2人で十分泊まれます。この板の間のところが8畳、土間のところが20畳くらいあります[fig.49]
バスルームもこういうふうになっています[fig.50]。冬は寒くて夏は暑いですが、まあ、住んでいらっしゃった方が、それを超える何かがあったような気がするとは言うてはりましたね(笑)。すごく喜んで住んでらっしゃった。

左:fig.49=床の間(右)、土間(左)
右:
fig.50=バスルーム

fig.51は貸しに出たある倉庫のリノベーション事例です。1階と中2階で、その上の2階に社宅みたいなものがあったんですけれども、前面道路が狭くて倉庫としてうまく機能しないのでなかなか借り手がつかなかった。これを、私どもの会社が見つけてデザイン事務所に紹介しました。すごく贅沢に160平米を4人で使っています[fig.52]。その上に事務所の代表者が住んでいます。ここもすごく広くて140平米くらいのワンルームで、家具とか置き放題なんですね[fig.53]。気に入ったものがあればすぐ買って住んでいるようです。
fig.51-53

●さらなるリノベーション2――水上建築
fig.54=貯木場
これがさらなるリノベーションのおもしろいところなんですが、これ、何かわかりますか?じつは貯木場なんです[fig.54]。東京でも貯木場がコンバージョンされてマリーナになったという例がありますが、これは大阪の貯木場でして、ご覧のように今は材木が全然浮かんでいません。私も子供のとき親父について、こういうところによく行きました。そのときは丸太がものすごく浮かんでいた覚えがあるんですが、最近行ったらこういう状態でした。
実はこれ私の知り合いのある大地主が持っている私有地なんです。こうした大きなプール状の水面を、そこの会社は6面くらい持っているんです。私有の水面というのはものすごく珍しいんです。ただ固定資産税は、材木がなくても払わなくてはいけないのでなんとかならんかいなと、埋め立ての試算とか宅地分譲とかいろいろシミュレーションされたんですが、まったく採算があわない。それで、ここに家を浮かべたらどうやということで、実験住宅をつくったわけですね[fig.55]
左:fig.55=外観
右:
fig.56=内観
これはパースでなくて本物です。いまこのフローティング・ハウスの扱いについて大阪市といろいろ協議中なんですが、これは土地に定着していないので建築確認も必要ないんです。地主さんが私の知り合いというだけなので、デザインは全然違う会社がやりました。今は実際の住宅としてではなく、お披露目して構造的にこれで大丈夫かとか、排水はどうすべきかとか、いろいろ実験的にやってすごくコストがかかっているんですが、私はこれが1000万円台でできるようにしたら、すぐ流通するかなと思います。それで、水面を貸してとかいうふうにすると、こういうハウスボート的なものが普及するんではないかなと思っています。これが内部です[fig.56]。いまは撮影用スタジオにも利用されています。

fig.57=アムステルダムのハウスボート
fig.57は昨年オランダに行って撮ってきたものですが、アムステルダムの運河ではこういうハウスボートというのが2400隻くらいあるんです。あるホテルのオーナーがハウスボートを1隻もっていて、インターネットでやりとりしたら貸してくれるという話になって、実際借りて1週間ほど住んできたんです。その結果は、やっぱりこれ、ありやなと思いました。
私はいま川沿いに小さな家を建てて住んでいまして、家の裏から船で中之島あたりを走ったりしているんです。最終的にはそこに家を浮かべたいと思っているんです。まあ、法的なことをいろいろ行政とやりとりして何年かのうちになんとか実行したいなと。
先ほども言いましたように日本でも住宅が不足していた時代、たとえば東京都でも川の上に6000世帯くらいが住んでいたというのが、昭和の初期のデータに残っています。住人は当然貧しい人たちですが、いまヨーロッパはどんどん変わっていて、水上に住むということが逆にステータスになっています。アムステルダムなんかでは皇太子が住んでいるんです。テムズ川にも、ヴァージングループの会長だったリチャード・ブロンソンが昔住んでいたりしました。ただ彼は舟をあまりにほったらかしにしてたので沈んでしまったらしいです。セーヌ川でも、女優のイザベル・アジャーニが住んでいて、これがかっこいいというふうに変わってきている。だから日本でもそれはありやなと私は思うんです。そういう住み方の幅の広がり方が世の中を面白くすると思っています。

fig.58=大阪市内の工業都市
fig.58は最後の写真です。これも実は大阪市内なんです。市内にこんな工業地帯があることはほとんど大阪の人も知らないし行くこともないんですが、私が船の修理をしてもらっている造船所の向かいにこういうのがあるんです。ここはまだ稼動しているんですけど、このような湾岸部の稼動していない土地が大阪湾、兵庫県とかにいっぱい出てきているんです。だから、土地はもう余っているんです。そこにまだまだ新築することも可能なんですが、果たしてそんなに建てていっていいのかと疑問に思います。それよりもそれら既存の工場などをリノベーションして人が住み着くとか、そんなことも今後はありなのかなと思って、この写真を最後につけたしだいです。
私の言いたいことは、いまリノベーションの行為ばかりが世の中で語られていますけれども、要は選択肢をひろめるためにリノベーションを使ったということと、リノベーションやコンバージョンをすると、いわゆる新築であたりまえに設計したもの――メーカーが経済的に考えてつくったもの――よりも、ものすごくはみだした面白いものができるということです。
140平米の倉庫に女性が一人で住むとか、空間の広さや天井高なども、いわゆる一般的な住宅にはない面白さがでてくる。住宅が多様化して、そこに暮らす人も多様化して、日本が元気に明るくなるんじゃないかなと思っているしだいです。だいたいこんなところです。どうもありがとうございました。[了]

[2004.07.09]
Renovation Archives [002]

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