プロローグセッション
●居ながら施行
[CASE1《七五三ビル》]
fig.4-01
3番目の「居ながら施行」です。じつはリファイン建築で一番やってみたかったのはこういう集合住宅なんです[fig.4-01]
この《七五三ビル》は、個人的に十何年来の付き合いをしている、当時小泉産業の営業部長をしていた原田さんの所有の建物で、彼がたまたまうちの事務所に来て、「古いマンションを持ってて、建て替えようと思うけど、設計する?」と聞かれて、「もちろん、するよ」と答えたら、「古いのを建て替えるのではなくてリファインできないか」と言われました。こうした集合住宅のリファインは、わたしにとっては喉から手が出るほどやりたかったものなので、すぐ提案しました。
既存プランでは5階まで階段で上がっていましたが、リファイン後はエレベーターを付けました。その位置は北側斜線の影響で決定され、確認申請を出しました。この廊下は外部に増築できないので、一部室内を外部として扱い、廊下を通しました。それからベランダを広くしてファサードを作りました[fig.4-02]

fig.4-02:平面図
左=既存/右=リファイン案
(黄色い部分が増築分)

fig.4-03
fig.4-03が工事の途中でスケルトンにしている状況です。劣化の部分や打ち継ぎ目地を、かなり綿密にエポキシ系樹脂で補強しました。昔はモッコンと言ってサッシュを作るときに木の棒のものを使って留めたんですね。僕も社会に出たころに使った記憶があるんですけど、いま見るとかなり断面欠損になっているところがあって、そういうものを一つひとつ潰していくのが主な仕事ですです。
fig.4-04
fig.4-04が出来上がりです。一部既存の壁を残して外からガルバニュウム鋼板を仕上げ材で張っているので外断熱の効果もある。なおかつベランダが外に出ているのでファサードも一新されました。
工期は5カ月で、あっという間にできた感じで、たぶんここを通っている人は驚いたと思います。fig.4-054-06はビフォア/アフターです。はじめにこれを見たときは、よく住むよなという感じでしたが、「神田川」の世界から「同棲時代」のインテリアへ変化したと思っています(笑)。
入居者には一度全員退去してもらってから施工に入りました。25戸しかないのでターゲットをちょっとリッチな若い層に絞ったんですが、ほぼそういう層の方が入居してます。

fig4-05 :左=リファイン前/右:リファイン後
fig4-06:左=リファイン前/右:リファイン後


[CASE2《緑が丘シャトー》]
次は《緑が丘シャトー》という、東京で初めての仕事です。ディベロッパーが持っていた建物で、入っていた人に一度出てもらって一新し、満杯にして一棟売りをしたいというのが本音のようです。
どれだけ耐震補強をするかということですが、事業収支が問題ですから、僕はだいたいこういう場合、松竹梅の3案は提案します。中間的な案は自分の家だったらこうやります、というものです。一番費用が高いのは新耐震になる案です。この建物は確認申請を出しますと役所に持って行ったら、「集団規定にかかるので出さないでくれ」と言われて、勝手にやれということでしたのでこれは自主的な補強なります。
駐車場がピロティになっていまして地震が来たら潰れてしまうので、1階に耐震壁を作る[fig.4-07]。2階の間取りを見ると、排水経路の問題で壁をちょっとぶち抜いて、水回りを縦に通してます。黄色い部分の住戸はPS(配管スペース)をベランダでとろうということで、ちょっと変形の水回りを作りました。それによって空間が生き生きするのではないかと考えました[fig.4-08]

fig4-07:1階平面図
左=既存/右=リファイン案
fig.4-08:2階平面図
左=既存/右=リファイン案

RCを解体して、こういうスケルトンになります[fig.4-09]。現在はこの段階が終わって中の耐震工事に入っています。
fig.4-10は新耐震に合うような補強ということで、1階から6階を炭素繊維補強、1階のピロティ部分に耐震壁という方法でやりました。もうちょっと楽な方法もあるのですが、最終的には僕が提案したものよりはかなり重い補強になっています。これは安全性を謳いたいからということでこうなりました。僕はもうワンランク下の補強でもいいと考えています。

fig.4-09 fig.4-10

いまはこういう状況で、タイルが落ちてくるのでネットを張っています[fig.4-11]。こういう建物になる予定です[fig.4-12]

fig.4-11・4-12

[CASE3《Tビル》]
fig.4-13・4-14
これは《Tビル》という新築のマンションで、ベランダに排水の縦管を通してます[fig.4-13]。右側がお風呂場です。ベランダに面してキッチンがあります。fig.4-14が反対側で、ベランダに縦管が通っているのがわかると思います。じつはこれをこことここでこの縦管は住戸ごとに外せるようになっています。賃貸住宅というのは入居者の入れ替わりにクロスの張り替えや、ペンキの塗り替えをしますよね。ここでは縦管を切って、ぱかっと取り替えできるようにしているんです。排水に関してはこれで長寿命化を図れると考えています。これと同じようなことをさきほどの《緑が丘シャトー》でもやろうとしています。
●過去に対する提案
建築設計の仕事は、作った瞬間から苦情の処理だけになり、後はゼネコンやメンテナンス会社にお願いし、次の仕事に向かうことになります。つまりきわめて未来志向の性格で、過去は決して振り向かない、それが建築家です。「リファイン建築」をやっているうちに、過去に対して提案をするということを考えさせられ、そのなかで、都市の問題や環境をどうするかということをすごく考えるようになりました。
それと、うちに入ってくる若い人が「リファイン建築」を一人で担当するまでに5年はかかる。しかし、われわれの世代は30年前からの建物をよく知っているわけで、そういう人が工事にあたればもう少しスムーズにいくと思いますが、いまはこのような経験を持った方が退職やリストラにあっている。
それから、INAXさんを含めてセメントメーカー、ガラスメーカー、電機メーカーなどは新築に対してのシステム化はできていると思うが、古い建物をどうするかというパーツがなかなかないのが現状です。それは一生懸命開発しながらやっているところです。例えば板金に関しても、新築はうまくいってますけど、再生建築に関しては使いづらい。サッシュなどはほとんど新築しか考えていない。設備機器に関しても同じです。
突き詰めて考えると未来に対しての提案はするけれど、過去に対しての提案をわれわれはやっていなかった。これらは自分が当面やらなくてはいけないことだと思っています。[了]
[2004.09.13]
Renovation Archives [003]
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