プロローグセッション

▲近角真一氏

●SとIをどこで切るか
SIという言葉がこの6〜7年くらいの間に急速に広まってきた中で、今の視点から振り返ってみて、SIについてどんなことが言えるか、ということを今日はお話したいと思います。
まず、SIのSはスケルトンですけれども、目指すスケルトンのイメージは長寿命、高強度、それから空間ヴォリュームが豊かである、ということです[fig.1-04]。長寿命、高強度あたりはだいたいわかるんですけど、空間ヴォリュームはどのくらいであればSIにふさわしいスケルトンなのかということについては、まだ議論はいろいろあります。例えば階高について、公団は3メートルがひとつの基準だと考えていますが、NEXT21では3メートル60センチを採用していて、この間にはかなりの開きがあるので、その中間くらいに適正な階高があるんじゃないかという議論もある。あるいは、スパンをかなりとばしているスケルトンとか、これは水まわりの設計には大変影響のある考えですけども、小梁のない大きな厚い床版であれば、どこに水まわりを持っていっても遮音的な問題については一定程度クリアできるとか、そういうスケルトンがイメージされている。

fig.1-04

もうひとつは設備に関してです。S(スケルトン)とI(インフィル)を分離するという考えについて、どこで分離するかということについてかなり研究が進んできて、こういう縦シャフトは共用廊下側に必ずあって、設備の端末機器から必ず外に出て接続する、つまり住区の専用エリア内に縦管があることは許されないというSIの基本的な考えがあるんです[fig.1-05]。このSとIの境目をどこで切るのか、ないしは外壁の区画貫通処理をどちらがするのかということはまだ決まっていなくて、業界のルールはまだできていないんですけど、いずれにしろ、SとIが分かれることは常識化してきています。

fig.1-05

fig.1-06
これは、つくば方式でつくられた近衛町アパートメントのマンションの中のインフィルです[fig.1-06]。これはマンション総プロの実験として、作家の舟橋聖一さんの使っていた愛用の書斎をスケルトンの中に移築した工事ですけれども、近角【よう】子がインフィル設計し、私自身はクラディング設計に関与しました。今までインフィルは、工業化インフィルでないとSIにはふさわしくないというイメージがあったと思いますけど、要するにSの性能さえよければ、Iはなんでもいいんだという認識に変わってきています。図式的に言うと、SIは工業化工法だけだと考えていたわけですが、在来工法であっても伝統工法であっても、ある一定ヴォリュームを持ったスケルトンであればそれを受け入れられるというように、インフィルのイメージもきわめて多様化してきていると思います[fig.1-07]

fig.1-07

●インフィルの工業化
fig.1-08
その実例として、いくつか紹介したいと思います。ひとつは「ふれっくすコート吉田」で[fig.1-08]、これはNEXT21が終わった後に、クラディングという外壁部分とインフィルの設計者として呼ばれました。NEXT21の時にインフィル設計者であった京都の吉村篤一さんがスケルトンを担当されて、NEXT21ではスケルトン設計者であった私がインフィルとクラディングを設計しました。この空間に使われている簡易可変インフィルは、工業化工法を使ったインフィルです。これまでのSIはほとんどが分譲住宅で、Iは自由設計で供給するというSIのイメージができていたんです。賃貸住宅でもSIはありうるということで、賃貸住宅用のインフィル開発に取り組み、固定インフィルと可変インフィルに区分するアイディアを考えました[fig.1-09]。固定インフィルは在来工法でつくってもいいと主張したわけです。つまり、SI住宅でも必ずしも工業化工法によらなくてもよいと主張する一方で、可変インフィルだけは一定のルールを守ってつくる商品パッケージにしようと考えたわけです。

fig.1-09

この時の考え方は、インフィルメーカー3社に依頼して、3社に対して材料まで細かく指定するのではなく、大まかなアウトラインだけを指定して発注して、あとはメーカーの自由な設計思想で取り組んでもらうというものです。ひとつの団地の中に3つのインフィルメーカーが入って、同じルールで簡易可変インフィルを展開しようと考えたわけです。公団の発足以来、集合住宅ではずっと900モジュールが使われているんですが、この時考えたルールは、モジュールは空間には与えられない、つまりモジュールを持っているのは部品であると考えたわけです。部品を足し算でつなげ、コーナーの処理の仕方は面合わせでいけばコーナー役物を作らなくてすむ。今まで芯合わせ、面合わせのモジュールの議論が長く行なわれてきましたが、それを踏襲するかぎり、必ずコーナー役物ができたり、モジュールの板厚の半分だけ小さい部品をつくらなければいけないとか、いろいろなルールが出てくる。こういう開発は1970年代に多くのメーカーが精力的にチャレンジして、さまざまなモデルができましたけれども、それらはほとんど売れなかった。結局、ジョイント・システムが過剰であるということは、簡易なインフィルとして普及させる時にマイナスになるため、家具の考え、つまり家具をつなげて並べていって部屋を仕切ることにしました。スケルトンをモジュールで規制しようというのは馬鹿な話なので、最後は端数でもいいというルールを適用してこの簡易可変インフィルを考えました。これに基づいた次世代インフィルというのは、在来工法でもいいからまず水まわりを固定でつくってもらい、残り全部をフリースペースとし、このフリースペース内はどんなやり方でつくっても結構ですというものです。今までの工業化はこの一番難しい水まわりにもモジュールを持ち込もうとしたりして、非常に無駄な努力をしてきたと考えたわけです。フリースペースのなかを可動間仕切りや、可動建具、移動収納にする、そういうものを「可変インフィル」と称して、この可変部分にだけルールをもってきて、そのルールは非常に簡単な900モジュールの面合わせでいこうと考えたわけです。これに加えてユーザーカスタマイズや、表面仕上げについてはユーザーの主張もいれるということを、SI住宅のなかでの標準的なインフィルルールにしました。
先ほど工業化工法と在来工法、伝統工法の3つを挙げましたが、工業化工法のインフィルルールというのは、これくらいルーズなものでいったほうがいいんじゃないかと主張しているわけです。収納と間仕切り、建具、開き戸、引き戸など個々の収まりとしては気に食わないところもありますが、あんまりうるさく言わないで、松下電工、大建工業、パネ協という会社に協力していただいたわけです。間仕切、ドア、引き戸、収納の底にキャスターがついていて動くものなどを組み合わせて、ひとつの間仕切壁を組み立てるのに何時間かかるかという実験をやりました。これはその時の記録です[fig.1-10〜13]。この時一番成績がよかったのはパネ協で、一番速かったということです。こんな実験を積み重ねた結果、簡易可変インフィルという概念が確立し、その後これが家具つきの賃貸住宅という流れにつながったと思っています。ここまでの話は賃貸版インフィルの工業化の話です。

fig.1-10〜13

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