プロローグセッション
●スケルトン、インフィル、クラディング
次はNEXT21についてですが、本体の新築時の話ではなくて、NEXT21ではリフォームの実験を随分やっていますので、その話をしたいと思います[fig.2-01]。NEXT21は大阪の清水谷というところに建っている実験住宅です。基本的な考え方は、スケルトンインフィルという考え方にもうひとつ「クラディング」という「覆うもの」という概念を加えて、3つの概念で考えたところに特徴があります[fig.2-02]。そしてクラディングにかなり自立的な役割を持たせようと考えています。

fig.2-01/fig.2-02

fig.2-03はマンション総プロで、スケルトン、インフィル、クラディングの関係を示しているものです。それまでスケルトン、インフィルと2つに分けるということが言われていたんですが、実はスケルトン、インフィルの中に、さらに2つずつの違った概念が入っているのではないかと思ったわけです。インフィルの中に、本当のインフィルとちょっとインフィルとは言いがたいものが入っている。スケルトンについても同じように、ちょっとスケルトンとは類別しがたいものが入っている。クラディングは耐用年限的に言うとスケルトンとインフィルの中間で、定期的な修繕更新が必要な部分です。意思決定主体から言うとインフィルの一部であるが外壁に類するものなので管理組合の支配下にないとおかしい。利用形態では、個人で使うものと共用のものと2種類ある。このようにスケルトン、インフィル、クラディングの3つの概念が整理されたわけです。

fig.2-03

●リフォーム実験
fig.2-04
fig.2-04がNEXT21のスケルトンです。竣工から2年後の1995年に402住戸のリフォーム実験が行なわれました[fig.2-05]。当初の設計も、リフォームの設計も吉村さんです。中の工法は在来工法です。工業化の考え方はほとんど入っていないのですが、ただ実験としては外壁を動かすということに重きをおいています。当初はテラスが2つあるんですけども、リフォーム後にはテラスが1カ所にまとまっています。ですから、外壁は、出っ張るところもあれば、引っ込むところもあるというかたちになっています。もちろん、台所がこちらからあちらに移るとか、浴室がこちらにくるとかという、NEXT21が元々持っていた水まわりの可変性も充分生かして設計されているわけです[fig.2-06・07]

fig.2-05 fig.2-06
fig.2-07

外壁が動くというところで資源循環の話につながるわけですが、外壁を動かすといっても、単純に動かした後に新しいものを持ってくるのではなく、元々あったものを入れ替えて位置を変えて再利用している。ですからこの中で言うと、動かさなかったものと動かしたもの、一度工場に持ち帰ってからまた持ってきたものがあり、新規のものとか使わなかったものはごく一部あるだけで、ほとんどのものが再利用されている。これがNEXT21が資源循環的なことも踏まえた外壁システム、クラディングシステムをもっていると主張している由縁です。
実際にリフォーム前のかたちと比べると、写真にもあるように外壁は「動いている」わけです。NEXT21の第1フェーズが5年間の居住実験、第2フェーズがさらに2000年から5年間あって、来年の3月で終わる予定ですが、この1次と2次のちょうど中間に、住戸分割リフォームをやろうということで、405住戸を二つに割ってすっかり改造し、元々住戸だったものを住戸外の共用部にしてしまおうというリフォームをやりました[fig.2-08]。インフィル設計を近角【よう】子、クラディング設計を私がやりました。工期3カ月で、リフォーム実験をしたわけですけれども、この時の特徴として、今度は簡易可変インフィル、先ほど吉田団地で実験をした、インフィルが簡便に変わるという概念を導入したインフィルとして、最初からつくろうということで始めました[fig.2-09]

fig.2-08
fig.2-09

このリフォームでも先ほどと同じように外壁を動かすのですが、前の402住戸の外壁実験でお金がかかってしまったので今度はあまり変えないで欲しいと言われて、せいぜい窓の大きさを変えるくらいにしました[fig.2-10]

fig.2-10

これができあがったプランですけども、ここに簡易可変インフィルを生かすという思想で居住者がそのルールにしたがって外壁を動かすことのできる間仕切りシステムを、水まわりも含めて導入したわけです[fig.2-11]。写真は元々大きな住宅の中にあった井戸端を共用部のところにもっていった所です[fig.2-12]

fig.2-11/12

続いてNEXT21の3度目のリフォーム実験を行ないました。今回は水まわりを大きく動かすのはやめてキッチンくらいにとどめ、収納や間仕切りを移動して、中に和室をつくる工事をしました[fig.2-13・14]。前の402住戸の時はインフィルの変更だけで数千万円の工事費がかかってしまったんですけど、この時は確か200万円くらいの工事費で変更できるような設計になっています。

fig.2-13
fig.2-14

簡便に施工ができるように工夫がいろいろしてあり、パネルの再利用率は85パーセントになっています[fig.2-15]。床下収納はパネルを入れ替えて残ったパネルを納めるためのものです。当初設計にはインフィルの実験的要素はあまりなかったのですが、リフォームでこういう簡易可変の考え方の提案ができました。

fig.2-15

●新しい構造システムの開発
こうした経験を踏まえてマンション総プロでは、インフィルという概念と、スケルトンという概念と、もうひとつクラディングという、街の表情をつくる壁を加えた3つの概念に分けて提案しています。また、インフィルだけが変わるのではなくて、実際に街並みもどんどん変わっていくということで、クラディングの可変性を導入した商店街のモデルがこれです[fig.2-16]。もう少し大きな板状住棟でも足元にはこういうクラディングシステムが入っています[fig.2-17]。それから都心型のものでは2層1ラーメン構造的な考え方のなかに、2層型のインフィルを入れていくことを提案しています[fig.2-18]
左上:fig.2-16
右上:fig.2-17
右下:fig.2-18

fig.2-19
NEXT21に似すぎていると批判されたことがありますけれど、100年の間には街にはさまざまな変化がありうるという街のモデルを提案したわけです[fig.2-19]

fig.2-20
これは最近「新構造システム建築物研究開発」というちょっと長い名前ですけども、府省連携プロジェクトとして経産省と国交省が手を携えて新しい構造システムを開発しようと取り組んでいる絵です[fig.2-20]。大手鉄鋼会社が2倍強い鉄を開発できるということで、震度7でも弾性構造で無損傷であるというのがひとつの謳い文句になっています。この中に3層部分にインフィルが入っていて、このインフィルはもはや外壁も全部備えた戸建住宅とほとんど変わらないものがイメージされているわけです。実際ここでは鉄鋼会社とハウスメーカーが何社か入って今後5年間の開発を進めることになっています。こういう人工地盤の上には、高層部分にインフィルとして入っているものとほとんど同じものが並んでくるというというイメージです。これもNEXT21の延長線上に考えたひとつの街のあり方に対する提案ということになります。SIに関する話はこれで終わりです。
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