プロローグセッション
●縦配管をめぐる近年の問題
立て管の管径については、本当は150mmくらいの管径で上げてしまえば、圧力変動なんて余計なことを考えなくても充分流すことができる。管径をワンサイズアップすれば能力を確保できるわけです。ただ、メーカーとしては、いろいろな部品の品揃えが大変になってきてしまいます。今は35〜36階まではほとんど125mmという管径で上げていて、150mmという継手はないし、実際に市販もされておりません。となると、だいたい125mmでいけるような範囲で、建物のなかの排水システムを考えなければならない。最悪の場合はどうするかと言いますと、系統分離をします。トイレから台所まで全部の排水を1本の配管で流す場合に比べて、それぞれに分けて流す場合は配管の流量を減らすことができるので、基本的に今は系統を分離しながらうまく対応していくという設計法になっています。
だんだんと超高層へ対応していくなかで、36階を越えたときの許容流量の予測方法と、最近では排水の騒音の問題が結構大きな話題になってきて、ほとんどの超高層ビルやマンションで配管・縦管に防振用のゴムを巻いたりする工事が多いといいます。これは建築の床などの遮音性能がものすごく上がってきて、まわりが静かになったために排水の騒音が問題になってきたということで、これまでの排水はただ流していればよかったんですけれども、今はそれでは許されなくなってきています。
もうひとつは掃除の問題です。中層くらいのところであれば、いわゆる高圧洗浄で下から圧力の高いホースを使ってなかを洗うことができますけれども、超高層になってくるとそれができない。下から入れるとせいぜい上がって30mくらいです。それより上げようと思ってもホースがよたってしまって上がっていかない。200kg/cm2くらいまで圧力を上げても、それ以上は上がらなくなります。そうすると、超高層のなかの排水管はどうやって清掃するかというと、上からホースを入れるしかなく、各階ごとに掃除口にホースを入れて引き上げながら洗っていく清掃方法をとらざるをえない。掃除の方法についても超高層に対応する開発が進められてきました。そういうことで縦配管はだいたい方向性が定まって、なんとか通常のマンションでは使えるという段階まできています。

●ヘッダー方式の開発
次に横の配管をどうするかという問題があります。横の配管についてはほとんど性能試験されていないわけです。ご承知のように、今までの配管は、風呂、洗面、洗濯から適当にパイプをつなぐ、いわゆる合流排水方式です[fig.2-01]。都市機構の場合は、台所は別系統で1本入れる形で、横の流れをつくっています。配管の勾配はトイレは1/100くらいですけど、あとは1/50でやります。それに対して、ヘッダー方式というのを開発しました[fig.2-02]。これは後で述べるスケルトン・インフィル(SI)住宅のなかでの方式なのですが、今まで合流していたものを単独系統に全部分けていますので、いろいろな意味でのメリットが出てきて、結果としてこの1/100勾配でよいという結論に至ったわけです。そのあたりの経緯が横枝管の開発につながって、KSI(公団型SI住宅)の排水ヘッダーをつくりました[fig.2-03]。都市機構では設備がSIになった場合、何かよいシンボルになるものはないかという議論があって、一番困るのが排水だったんです。排水管というのは自然勾配をもっているし、太いし、そういうものがゴロゴロ転がっているので、非常に計画に制限があった。そういうことから、排水ヘッダー方式を提案することになりました[fig.2-04]。ただ、今はこれにヘッダーというもっともらしい名前をつけていますが、なんということはなくて昔はこういうT型とY型の継手を2つ合わせてつないで流していたんです。継手同士をつなぐ短管があまり多いとどんどん継手が長くなっていくので、間を切って溶接したりして原型をつくりました。こういうものをつくって、どういう排水方式が可能になるのかという議論をしてきました。fig.2-05はできあがった排水ヘッダーの例ですが、そこに掃除口をつけたんです。ここからノズルを入れてこの系統の掃除をすべて外からできるというのをひとつのウリにしています。それからもうひとつは、管径はそれまで40Aと50Aという2種類くらいの配管があったんですが、こういうヘッダー方式ですので、太ければ太いほどよいということで全部50Aに統一しました。


fig.2-01

fig.2-02

fig.2-03

fig.2-04

fig.2-05
●フレキ配管方式
SIのなかでどういうメリットを見つけたかというと、そもそもSI住宅は何かというときに、まず可変性、拡張性、更新性、保全性があります。これは建築からのインプットになっていますが、住戸の専有部に排水管が立っているとその部分の平面形状がいびつになって、将来改修するときに邪魔なので床面にはあまり配水管を立てたくない。それで、共用部に排水管を追い出したいというのがそもそもの発想だったわけです。われわれとしても、共用部に排水管があればメンテナンスも楽になるので大変よいということで、共用部に排水管をもってこようと考えました。ただ、そうすると当然配管がものすごく長くなります。長くなると1/50の勾配では床下の寸法に限界が出てきてしまう。このような状況で、なんとか排水管の緩勾配化ができないかという議論になってきましたが、勾配が緩くなるとどんな問題が起きてくるのか予測できませんでした。聞くところによれば、1/100くらいに緩めても水は結構流れるけれども、1/50という基準がある以上は、そう簡単にそれを崩すこともできない。そうしたジレンマのなかでさまざまな実験をしました。当然ながら排水を円滑化するにはまず、曲がりや継手をできるだけ減らし、さらに合流も減らした。そうすると1対1の関係が出てきて、しかもそのなかの継手を非常にスムーズなものにできる。ある意味ではフレキ管くらいがよいということになったわけです。それから、排水器具の間で、例ば台所から流した水が洗濯防水パンにあふれては困るので、器具と器具が影響しないように、排水を1対1の関係にする必要から、排水ヘッダー方式がよいという論理の整理をしたわけです。もうここまでくると配管は、継手と直管の組み合わせでやるという必然性はあまりなくなり、フレキ配管でよいという議論がありましたが、これには抵抗もありました。というのは、まずよいフレキ管がなかった。特に耐油性に関して、キッチンまわりの油が出るところは、軟質塩ビにはなかなかできない。それからフレキ管の勾配はどうやってとるのかということがあります。ふにゃふにゃしているものですから、それにきれいな勾配をつけていくと、支持バンドのピッチがものすごく細かくなる。そんなに手間がかかるんだったら、逆にフレキ管は使わないほうがよいのではということになったり、結構フレキ管論争というのがありました。基本的にフレキ管は、だらっと転がしてそのままにしておけば、それで充分排水が流れるのではないかと考えて、いくつか実験しています。部分的には落差で落ちますが、そのあと勾配のない平らなところでも排水は流れる。ヘッドがあるものについてはそういう流れ方もできるということで、まだこれは研究課題として残しておりますが、フレキ配管方式という方法があります。

●排水ヘッダーの工夫と清掃の問題
いろいろな排水ヘッダーができ上がってきたときに、たくさんある穴のうち使わない穴はどうするのかというので閉止ふたをつくりました。また「ここから先、浴槽まで何メートルです」と表示すれば、ノズルで掃除をするときに、ここからホースを入れてちょうど浴槽のトラップの寸前で止めて掃除ができる。なぜこういうことをやるかというと、都市機構の場合は賃貸なので、管理会社が定期的に清掃する形になっています。留守のお宅は清掃できないため、いちいち居てもらわなければいけないので、それをできるだけなくすために共有部から清掃できるようにしようと随分実験をしました。その結果、ほぼできるとわかったんですけれども、そうなると、掃除したかを誰が確認するのかが問題になります。通常の高圧洗浄では、家のなかに人が入ってきて、持ち込んだホースで水をかけたりして「終わりましたからハンコください」となります。ところが外からやってきれいにしたことをどうやって証明するか、掃除ビジネスをどうするかなど、いろいろな問題があります。そういうことから、仕掛けはできましたけれども、これに対応するような清掃システムまではまだ至っていません。
fig.2-06は設置例です。この排水ヘッダーでは、汚水は別系統として、直接排水立て管に接続することを原則としています。汚水をこのヘッダーに合流させる実験もしましたが、まだ若干の問題が残っています。例えば一方から汚水を入れると、その汚水が他の配管に逆流するという状況が出てきます。1回逆流しても、2回目くらいには戻ってしまいますから実用上問題はないと思われました。配管のなかに水がどう戻ってどう出ていくかなんて今まで誰も見たことがない。だから、どんなことが起きるのかわからないこともあり、ただ念のため、汚水系とは別ですよということにしました。fig.2-07も設置例で配管が3本出ていますけれども、メガネ型の支持バンドを付属品として開発して、継手の支持が1個で済むようにしています。


fig.2-06

fig.2-07
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