プロローグレクチャー

●活用されるヘッダー
難波――僕も素朴な、でもシリアスな質問をしたいと思います。安孫子さんがお話になったのは集合住宅の排水についてですが、そのシステムが戸建てにも適用できるのかという点についてです。例えば今のお話のキーワードは排水ヘッダーですが、排水ヘッダーを戸建てで使うことは可能なのか、あるいは、もし使うとしたらどういう問題が出てくるのかをお聞きしたい。僕は木造戸建て住宅「MUJI+INFILL木の家」のシステムを開発しましたが、そのときに、基礎を除いて建物のシェルターとスケルトンはほとんど部品化できましたが、最後まで残ったのがライフラインです。電気配線は細いので何とか納めることができましたが、配管類は非常に難しい。もし排水ヘッダーシステムがうまく適用できたらシステムが明確になると思うのですが、その可能性はあるのかというのが最初の質問です。
もう一つは、安孫子さんの話のバックグラウンドにはスケルトン・インフィル(SI)の考え方があって、それを前提に排水のシステムの開発が展開されていると思うんです。前回、近角真一さんがスケルトン・インフィルの話をされたとき、松村さんが反論されて、「SIには可能性はない」と言われた(笑)。安孫子さんの排水システムについて、その問題はどう関係しているのでしょうか。スケルトン・インフィルと今回の話との関係は1対1なのか、以上の2点についてお聞きしたいと思います。

▲難波和彦氏

安孫子――まず戸建て住宅のなかでのヘッダーに関してですが、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)のなかに維持管理容易性というのがあるのはご存知だと思いますけども、そこで点検口をつけなさい、接続部分は見えるようにしなさい、そういう話がやたらたくさん出てくる。特に基礎部分の配管貫通の方法を非常に制限してきたという経緯があり、それがどちらかというと功を奏したというと変なんですけども、あまり基礎部分を排水管がくぐって抜いていくといろいろなところで処置をしなければならなくなり、それは大変なので、床下に置くプラスチックのヘッダーが開発されてすでに市販されています。戸建て住宅で、便所などいろいろなところからくる配管をとにかく床下で集合させて、まとめて抜くという考え方があって、そういう商品がすでにいくつか出ていることを考えれば、ヘッダーという方式は戸建て住宅でも可能であるし、またその結果として住宅の外溝部分のマスの数が大幅に「減った」と思うわけです。

難波――「へったー」ですか?(笑)

安孫子――経済的にもたぶんペイするものが開発された。これは期待していなかったんですが、そういう商品をうまく見つけた人がいたなという感じはしました。
それから2つ目のご質問のSIを前提としていることについてですが、集合住宅の場合、上の階と下の階で同じ位置にトイレやキッチンがあるのが常識です。だから配管がある場所を通っていれば、下まで同じところを通していく。ところが、SIで計画の方々が一番評価してくれたのは、上の階と下の階のプランニングを変えられることです。そのために排水管を外に出すことで、何も色のついていないスラブになるからフリープランもつくれる。そうすると、必然的に立て管からの配管は非常に長い距離になってくる。ヘッダーを使うようになってその距離はものすごく長いんです。これまでのマンションでは、トイレと縦管の距離は1メートルくらいで全部処理されているはずなんですが、今はそれが10メートルくらいまで引っ張れます。そんなに横引きしても大丈夫かという議論が随分ありましたけれど、超節水型便器でもだいたい10メートルぐらい引ければよいということで、低勾配でもいろいろな実験をしました。基本的には必要以上に長くするのは問題なんですけれども、ある程度の長さまではクリアできる。SIは将来的にプランなどが変わるだろうからヘッダーはそれに対応できるという考え方もあります。しょっちゅうプランを変えることは期待できませんが、最初のフリープランのときにヘッダーを使うことには、非常に可能性があると思います。
配管が長くなったことによって、ちょっとした副産物が出てきたんです。先ほど立て管の許容流量という話をしましたが、その許容流量は器具によって横からの負荷が違うんです。非常に立て管に近いところに器具がありますと、流した瞬間の大きな山の波が立て管にどんと入る。ところが長い距離がありますと、山がだんだんならされてきてちょこちょこ入る。そうすると、立て管の許容流量が増えることがわかった。ですから、超高層になった場合は、ある程度長くしたほうがよいわけです。立て管のすぐ近くに便器をつけないで、一回りまわってからつけてくれというように、むしろそうすることで負荷を減らせることも副産物みたいに出てきた。われわれも気がつかなかったことがいろいろ出てきたんです。

松村――前回何を言ったのか思い出そうとしているんですけど、なかなか思い出せない(笑)。僕は前回、SIなんて今ごろ言っていてもしょうがないという話をしたんですが、それは例えば、内装とかプランを住み手が参加することによって自由にできるとか、長期耐用性にすぐれた躯体のなかでいろいろとやり替えができる、ということを課題に設定していたからです。それはもうできているじゃないかというのが僕の考えです。SIなんて言っていないリフォーム業者はそれをやっているし、それからユーザーが間取りを自由にできるシステムは、SIと言っていないマンションの供給スタイルのなかで実は確立しているので、そういうことはもう課題ではない、ということだったんです。
安孫子さんをよいしょするわけではないんですけれども、設備の問題は、最初に区分所有との関係が出てきましたけれども、区分所有法が成立した後のマンションでも実際に起こっていて、配管を下に抜いてしまうものや、あるいは共用立て管が住戸のなかのトイレの後ろ側でずぼっと抜けているものがあるわけです。つまり誰の空間であるかということと、その空間を使っているということが整合がとれていないという問題が設備の場合にはある。例えば共用立て管をメンテナンスするのに、いちいち専有住戸部分に入ってトイレの後ろをメンテしたり、上の階の横引き配管を修繕をするのに、下の権利者のところに行かないと工事ができないというマンションが、実際に日本ではたくさん建てられているわけです。それをなんとかしなくてはいけないという文脈で、ハブラーケン風に言うと、サポートの部分とインフィルの部分の設備ははっきり分けたほうがいいと考えています。だから安孫子さんのお話は、それはそうですよねという感じで聞いていたんです(笑)。

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