プロローグセッション
●サービス産業になっていくリノベーション
最近の自分の仕事について話しますと、実はリノベーションだらけなんです。どういうことが起きているかというと、僕はもう設計を始めて30年以上になりますが、新築の仕事はほとんどなくて、若い頃設計した建物がガタがきてしまっていて、自分の設計したものをリノベーションしなければならないという問題が起きています。太田浩史さんみたいな若い方はそういう経験がないでしょうが、10年か20年経つと自分のつくったものでも必ずリノベーションしなければならない。これは大きなオフィスビルにしても小さな住宅にしてもまったく同じで、二十数年くらい前につくったものや15年くらい前につくったもののリノベーションや手当てに追われています。ものをつくって売るよりもサービス産業のほうが利益がずっと大きいですから、設計から工務店やゼネコンなどまで含めて、リノベーションを中心にした建設産業自体がだんだんサービス産業になっていくということが一般に言われています。サービスとリノベートは、要するに施主と延々とつきあう、それからコンシューマーと延々とつきあうということで、それはある意味ではビジネスになりうると思います。今までのように新しくつくるとか部品を売りっぱなしにするという産業とはちょっと違うところがリノベーションにはあって、単純に言うとレベルが一つ高いサービス産業です。それを自覚することが、この新しい分野を筋金入りのものにしていくために必要じゃないかと思います。多くの人が言うように、設計はサービス産業なんですが、なかなかこれを本当に理解している人は少なくて、営業の人でさえ、多くのビジネスチャンスがあって利幅も大きいサービス産業だと理解できていないというのがリノベーション産業の実態ではないかと思います。

●世界中から集めた部材でつくった《世田谷村》
fig.1-01 着工当時 fig.1-02 現在
私の家も実はリノベーションです。築50年の木造平屋で、家族は壊すことに反対したわけですが、私は主義主張を持ってこれを壊しました。実は壊してからもったいないことをしたなと思っているんですが、木造平屋の屋根をちょん切って、その平屋の上に2階と3階を特殊な構造で増築しました。だからある意味ではリノベーションです。電気部品はアメリカンスタンダードという会社から買って失敗しましたが、とにかくいろいろな部品をインターネットで世界中から集めました。僕は世界中のマーケットに行っていて、それしか趣味がないというくらい値段を調べるのが好きなんです。便器とか洗面器の値段をやたらと比較するのが好きなので、例えば、韓国のものはものすごく安いけれども壊れやすいということも知っています。だから値段はだいたい把握していますが、インターネットで値段を調べておいて、その後個々に買っていきました。
fig.1-03―06 2階 fig.1-07―08 2階から3階を見上げる

fig.1-09―11 3階


左:韓国製の換気扇
右:イタリアのキャンピングカーの部品
fig.1-12―13
屋上で回っているのは、アジアで一番安い韓国製の換気扇です。これは韓国から買ってくると運賃込みで一つ4700円ですが、ベアリングが入っていて世界で一番高性能の換気扇です。ただデザインが悪い。これに一番高性能の自転車のモーターをつけて発電をしてみようと思ったんですが、今のところは成功しておりません。イタリアのキャンピングカーの部品もありますが、こういうふうに僕でも世界中の部品を集められる。壁は温室メーカーの壁の部品で、建築の部品の値段と比べると3分の1くらいの値段で買えますし、ガラスの値段も外国のものと比べられるようになるんです。こういう部品や部位・部材は、情報化の時代ですから、そういう形で消費者にどんどん入っていくだろうと思います。マーケットにあるのは液晶ヴィジョンの戦いだけだとい言われていますが、建築部品のところにもだんだん入ってくるだろうし、あらゆるものにそういう水準が出てきて、いずれそういうものと戦わなければならないと思います。
私の家はスラブがあって後は勝手に部品をはめ込んでいけばよいという、基本的な考えをそのまま実現してしまったような家です。人工土地があってそこに自分で買ってくることができる部品をはめ込んでいくという家です。違う体系で流れている部品は、どういうルートで買うとどれぐらい安いかということがわかると、日本のメーカーのソーラーと韓国製のソーラーを比較できる。それで例えば、あるメーカーにいって「これは内緒にしてくださいね」なんて言われる値段でセルだけを買ったんです。そういうことがこれから住宅の、特に消費者が直接関与できる部分ではどんどん出てくるだろうという感じがします。そういう競争力を持つと同時に、教育もしていくことが大事です。それから、生活スタイルの中にリノベーションで自分の家をつくるとか、自分の室内をつくることを組み込んでいくと合理的になるということを総合的にプロパガンダしていくことがリノベーション・ビジネスの中心になると思います。

●インターネットの力
難波先生ほどではないですが、僕も住宅をたくさんやっているんですけれども、私のこのごろの施主の中でも若い施主は、僕よりも値段をよく知っていて厄介な人が多くなっているんです(笑)。実は困ってしまうこともあるんですが、施行途中の現場にパソコンを持ってきて、その場でオークションを見始めるんですね。それで例えば、ここにINAXのこの部品使いましょうと言うと、その場でぱっと調べてドイツのここに700円安いものがあるとかすぐやるんですよ。こういう方は特殊なのかと思っていたら、30代くらいで家を建てる方はだいたいこういう情報を持っていて、これからもっと増えると思います。クライアントの値段や製品に対する知識は今、加速度的に増えているのだろうと実感します。
それからみんな最初は自分でやってみたがるんですね。この前も世田谷の成城の近くで1軒小さな家を建てましたが、ここでは奥さんがインターネットを引いて、本当に細々と窓枠から照明器具からバスタブや便器まで1000円単位の値段まで全部自分で調べて、それによって満足を感じているわけです。インターネットは当然われわれの産業よりずっとスピードもシステムも加速度的に進歩しているから、全然違う産業体系だとは思いますけれども、いろいろな建築の部品を動かしてみている。これからいろいろな問題が起きてくると思います。例えば、なかなか部品が届かないとか、届いてみたら壊れていたとか、そういう問題も発生するでしょう。でも消費者は、住宅のコストが100かかるとすると15ぐらいは自分で設計してみたい、特に値段に関しては自分で参加したいと考える人が女性を中心にして増えていて、それを満たすことが満足につながるんだと思います。ですから、インターネット・オークションだけではなくて、インターネットを使ったシステムにマーケットが短絡して間が必要なくなってくるということが、特にリノベーションに関しては、これから起こってくるのではないかと考えています。
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