プロローグレクチャー
松村秀一氏
▲松村秀一氏

松村秀一――住宅のリノベーションに設計職はなくてよい、というレベルがあるということをこんなに明快に言ってもらえると、ぐっと話しやすくなります。僕は、これから設計していこうという学生や、現に今設計している人たちに「これからは新築はないですから、コンバージョンですよ、リノベーションですよ、そこに活路を見出しましょう」という講演を時々します。そこから話がリノベーションに移っていく時に、ただし設計はないですよとは言えないし、ないと言うために研究しているわけでもないので、何となく煮え切らずに「がんばりましょう、設計料の取り方も考えなければなりませんね」と言ってしまいます。すると毎回必ず「これからはそういう分野だと思うのですが、設計料はどういうふうになるのですか」という質問がくるんです。そんなふうに僕が不明快にしゃべっていたのとは違って、今日の話は、違う領域を持った職種として位置づける、ということだと思うんです。
例えば、最近の超高層ビルの現場について、外装の技術コンサルタントをされている横田暉生さんから「最近、現場はものすごく変わっています。カーテンウォールなんかも海外メーカーのものが増えている」という主旨の話を伺いました。そうした海外からの調達になると、従来のゼネコンの現場所長といった施工管理部門の人よりも、むしろ調達部門が実質的な決定権を持つようになるというのです。つまり、国際市場での取引や契約関係をやってきた経験があるような調達の専門家。これまで国内でサブコンと取引してきたようなノウハウ等は通用しにくくなる。そういう状況になっているそうです。ちょっと違う話ではありますが、マーケットやマーケットと連動して動いているものが変わると、そこに必要なノウハウも変わるということが同じ建設業界の中でも現実に起こっている。

太田浩史氏
▲太田浩史氏
太田浩史――建築家の領分がなくなるというお話はその通りで、実際に事務所をやっている実感からすると、もうそういう状況になっています。来る仕事が改装ばかりですから全然食っていけなくて、それで僕は大学にお世話になっているような気もします。こういう状況でどうやって生きていくかといったら、A級のリノベーションとB級のリノベーションを分けて考えることかと思います。それほどに、リノベーションの初期条件にはピンからキリまであって、ストックの状態を見極めたうえで、リノベーションの効果が長く残るようなA級の仕事を増やしていくことが社会的には重要なのだと思います。それをどのように増やしていくかなのですが、先ほど石山先生がおっしゃられた地方都市の中心市街ではないかと僕も思っていまして、リノベーションを都市再生の手法として確立することが大事なのでは、と思っています。周りの建築家の仲間を見ても、みんなB級のリノベーションをゲリラ戦のようにあちこちで展開しているという感じです。それが商店街の再活性化につながるのではないかという希望を持って、ボランティアのように自分を勇気づけてやっていたりするんですが、こうしたプロジェクトをもう少し社会化していく方向を探さないと、建築家は滅びるのではないかと思います。

石山――A級のほうが上だとすると、たくさんのB級が出てこないとA級というのはないんだよね。

太田――そうですね。石山先生がおっしゃったような教育は、B級の裾野を広げるということですよね。新しいライフスタイルや新しい建築家の職能を議論するためには、もちろん累々たるB級のプロジェクトも大事だと思います。
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