プロローグセッション
●ホテル海洋プロジェクト
次に紹介するプロジェクトは、われわれがこれを取得したこと自体はオープンになっておりますが、こういうかたちで再生するということを社外に発表するのは実は初めてです。われわれはこういう大きさのものばかりではなくて、実際には一棟あたりせいぜい10億円以下クラスの投資もやっているのですが、この物件は総額でおそらく150億円くらいの投資になると思っております。
fig.3 -01
大久保駅の駅前にホテル海洋というホテルがありますが、元々は日本財団の傘下の財団が保有していたもので、日本財団が90億円でリプラスに売却にしたという話が5月にオープンになっています[fig.3 -01]。建ったのがバブルの頃で、建物自体もあの当時の雰囲気を非常によく伝えている建物です。エントランスフロアに明治天皇御供用の馬車が飾ってあったりしました。JRの線路に面して地下5階まで掘ってあり、地上22階という建物です。写真を見れば、多分中央線等をご利用になっている方はおわかりになると思います[fig.3 -02]。タワー型のホテルです[fig.3 -03]。元々は笹川良一さんが、ヨーロッパの歴史あるホテルを訪ねた時に、そういったホテルが街の中にとけ込んでいて、ホテルに使われている大理石なんかが使い込まれて真ん中が減っているけどなじんでいるというような、そういう感じのものをつくりたいということでした。これは戸田建設の施工ですが、当時戸田建設に「立地は大久保だけれども、ホテルオークラや帝国ホテルに負けないというコンセプトで」といってつくったというものです[fig.3 -04-07]。写真で見ると非常にきらびやかで、窓からの景色も良く、周りにさえぎるものが何もありません[fig.3 -08]。新宿区の40メートルの高さ規制がこの先どうなるのかよくわからないですが、それがなくても、眺望をさえぎるものはおそらく周りに生まれないだろうというのが現状の見方です。
fig.3 -02 fig.3 -03
fig.3 -04
fig.3 -05 fig.3 -06
fig.3 -07 fig.3 -08
これに対して投資をして何をしていくかというお話を次にします。このタワー棟を中心にレジデンス、ホテル、商業施設から成る複合ビルにリニューアルしたいと考えています。この物件を投資として考えた時に、なぜこんな複雑なことをするのかというと、この大久保という立地であのクラスのホテルは、ホテルとしては競争力がないからです。今までのフルサービスのホテルとしては競争力がない。このホテルは宴会場のフロアが非常に大きくて、ホテルの客室もわりと大きめにとってあります。上の方には立派なスイートルームがあって、現アメリカ合衆国大統領の父親のブッシュ氏が大統領を辞めた後に来日したとき、笹川良一さんの招きで泊まられたことがあるというホテルなんですが、競争力は弱くなっている。イメージとしては多分、都心のプリンスホテルが、投資銀行のゴールドマン・サックスやリーマンから見ると値段が出ないと言われているのと同じです。どういうことかと言うと、宴会場フロアが大きすぎるとシティホテルの運営は絶対にコストが合わないんです。直近でわかりやすい例では、例えば港区の新しいホテルなどが結婚式を実質上やらないというかたちで宴会場フロアの運営コストを抑えています。また、旧来の都心の大型ホテルがなぜあれだけ苦戦するかというと、宴会場フロアが大きすぎるからです。だから宴会フロアをそのままにしていると競争力はないんです。そうするとホテルとして営業体制や運営体制を見直しても、われわれの取得したコストが正当化できないことになります。つまり、そのままの状態でこの建物を全部再生しようとすると、あまりにも敷地の使い方等に無駄が大きすぎて合わないということになるわけです。もう一つの問題は、かなりの額の投資をした建物ですので、固定資産税が高すぎて、どう工夫して新しいテナントを入れ直しても、利回りが合わないんです。この問題に対応して内部のリニューアルを行なうことによって、一定の収益確保をしたいと考えています。先ほど触れました新宿区の40メートルの高さ規制については、既存建物はなんとかしようという話ですので残せることになります。この建物を解体しようと考えた場合、複数のゼネコンから出てきた回答は、解体費10億円くらいで期間13カ月でした。それだけで投資としてはほとんど合わなくなってしまいますから、それはやめて再生をしようとしています。
今われわれがトライしようとしていることは何かと言いますと、残没的なリニューアルが、構造も含めて実現可能かということです。私たちは追加の補強をしながらでも再生をしていくという選択をしています。これが一つ目のチャレンジかなと思います。二つ目は、投資という観点で考えますと、キャッシュフローを生まない期間をどう縮めるかというのが一番大きなポイントになります。解体とか再生とかいろいろな前段階を含めて、どういうプロセスを同期させてキャッシュを生まない、運用に入る前の期間を短くするかが二つ目のチャレンジになります。そして最後に、どれだけ楽しく面白く質のいいものにしつつキャッシュフローを生むものにするかというプランニングのところを三つ目のチャレンジとしてやっています。もしかするとわれわれは、この三つのチャレンジが満たされなければ、全部つぶして新築するという道を選ぶかもしれません。そのために海外のデザインの傾向も結構見て、やり方を考え直そうという話をしているところです。こうした物件は東京ではこれから出てくるという感じですが、海外ではこういう事例が結構あります。
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