プロローグセッション
●バーティカル・ガーデンシティ
これは提案している「バーティカル・ガーデンシティ」のイメージです[fig.2-01]。集約して高い建物を建てて、その残った所を広場や空き地として利用したり、低層の屋上を緑化するというイメージです。特徴は、第一に職住近接のまちをつくることです。ここで働いて、近くに住むことができるまちでは、自由時間が拡大できます。職住が近接した都市を実現することで、長距離通勤がなくなって自由時間が倍増するわけです。2番目の特徴が多様な都市機能の充実です。このようなコンパクトな街は住んだり、仕事をするだけではなく、商業系や遊ぶ所、教育施設、医療施設も必要です。3番目は、高度利用と街区単位の都市づくりです。私たちは細分化された土地利用ではなくて、街区単位の街づくりを考えています。そのように大きな単位で街を考えることによって、保存するものを保存することができます。今は建築物の次は敷地で、敷地の次は都市計画の色分け図になってしまう。街区でものを考えることは、概念や法規的にはあまりされておらず、敷地の斜線制限などの規制の次は色分け図ということになっています。4番目は水や緑の創出・拡大です。建物を高層化してオープンスペースにそういうものをつくることが可能となります。5番目は、安全で快適な都市づくりです。新しい建物をつくりますから、新耐震はもちろんですが、制震や免震も取り込めます。さらに、エネルギーの備蓄や保存、緊急事態におけるエネルギー確保も街区ででき、大きな街区でつくるとそういうことが実現できると考えています。

fig.2-01
●六本木周辺の地域特性
ここで青山から浜離宮あたりにかけての地域特性についてふれておきたいと思います。街の骨格は、ベースとしては東海道の沿道にあります。虎ノ門は、江戸三十六見附と言われる見附の中でも特に重要な江戸五口のひとつで、街道の要所でした。それから増上寺から愛宕神社あたりは、広大な寺社地や敷地割りの大きな武家屋敷や掘割があります[fig.2-02]。ここに、現在は日本橋と同じように高速道路の下を流れる古川があります。それから桜川が流れていて、水にゆかりの深いところで、江戸時代は参勤交代などで物資や情報が集まりました。明治時代は新橋・横浜間に鉄道が敷かれるとともに、各国の公使館が港区に集まって、西洋文明が多く入ってきました。地形特性で言うと、丘が張り出して、新橋側が平坦な所です。愛宕山があって、六本木ヒルズは山と谷に挟まれた所にあります。東西の手前側が起伏があって、反対側が平らという地形です。その中に神社やお寺、それから傾斜がある場所に緑が残っています。愛宕の周辺もそうです。古川は昔は「春の小川はさらさら行くよ」と歌われた小川でしたが、今は高速の下にあり、「どろどろ行く」状況です(笑)[fig.2-03]。それから、神社や無形文化財があったり、愛宕神社の例大祭やほおずき市、芝大神宮のだらだら祭りなどが昔から行なわれています。さらには、テレビ朝日、テレビ東京、NHK放送博物館、TBSなどの放送局やコンサートホール、美術館がある。外国人も多くて、この地域は、2002年には外国人登録の割合が13.2パーセントの外国人登録地域です。それくらい外国人が多く住んでいる街です。

fig.2-02
fig.2-03

地域の構造についてですが、住宅地域と業務地域が混在しているのが特徴です。昼間人口は夜間のそれの13.6倍、マンハッタンは1.3倍、パリは1.4倍です。働いている人がたくさんいるけれど、そこに住んでいる人が少ない地域だと言えます。
このあたりの道路状況ですが、左が昭和21(1946)年の戦災復興都市計画で、50メートルや100メートルという立派な道路が計画されました。1964年の東京オリンピックの時に六本木通り、青山通りは拡幅整備されたのですが、その後計画が縮小されます。都市計画道路の整備状況は、東京全体から見ると地域としては割と良いのですが、歯抜けの部分があるという場所です。道路率については、住宅が多い所は割と道路率が低く、全体の道路率は一般とあまり変わらず、むしろ港区全体よりはよい。新橋は、古い地図で見ると大きな屋敷があった所が細分化されていて、街区構成はごちゃごちゃしていますが、道路率は比較的高い地域です。交通網については地下鉄大江戸線ができて、かなりカバーされています。

●水と緑のネットワーク、歴史的建造物の保存 、国際性・文化性の高い都市づくり
そんな街を地域整備イメージとしてどう整理していくかが問題です。水と緑のネットワークについて言えば、このあたりはもともと水があった地域だし、日比谷公園から愛宕山、芝公園に続く連続している緑があります。緑のネットワークや、もともとあった水のネットワークを生かしていくことが大切なのではないか。それから、外苑東通りを並木道にすることも考えられます。同時に歴史的資源を活用していかなければなりません。水と緑があふれ、歴史が息づく都市を創出しようというのが、地域整備イメージのひとつです[fig.2-04]。具体的には、きちんと再開発や街づくりをしていくなかで、抜けている所の道路整備をして、快適で豊かな道路空間を創造する。幹線道路を整備するのは当然ですし、再開発や街づくりを行なうなかで道路幅を広げることを大いに行なっていくべきだと考えています。

fig.2-04

それから国際性や文化の創造と発信ということで言えば、もともと多くの外国人がいたり、ファッション関連の会社が集まっていて、ここは他よりもそのような発信ができる機能をもっていると思います。それからコンパクトに住むためには、地域に多様な機能が集まっていなくてはいけません。教育施設、高度先端医療施設──近くに慈恵医大もあります──が集まり、そして知識創造産業の発展も考えなくてはなりません。つまり国際性・文化性・先端性を発展させる、ということを地域整備のイメージとしています。
図では「観光交流都市の創造」となっていますが、簡単に言えば個性的で魅力ある空間があり、緑や交通のネットワークが充実し、歩いても楽しい場所をつくることを意味しています。それから多くの外国人がいるため、外国語併記の案内板や観光ルートもつくります。六本木ヒルズのアリーナでのさまざまなイベントも、魅力ある空間と中身をつくるために日夜企画をしています。こうしたハードとソフトを通じて、多くの人が集まり魅力的な空間と楽しい時間を創出する街にしたいと考えています。
それから、街づくりの人口フレームについて、どういうイメージで街を整備するかということについて説明します。この図は地域が10年後に開発されたら、さらにそれ以外の20、30年後に開発されたらどうなるかというものです。80パーセントくらいは開発されますが、その際の土地利用の考え方は、現況は、道路率は23パーセントとそんなに悪くはない。公園は6パーセントで、それ以外は宅地になっている。将来的には道路がだいたい25パーセントに整備する。公園は15パーセントで、さらに10パーセントくらい一般の民間の土地でオープンスペースを確保し、宅地を50パーセントくらいに想定するのがよいのではないかと思っています。ちなみにマンハッタンでは、宅地が55パーセント、道路が28パーセント、公園が17パーセントです。
地域整備のイメージとして、土地の高度利用と先ほどから言っておりますが、想定容積は1000パーセントです。丸の内が1300、1400パーセントですから、この地域は丸の内よりも複合しているので1000パーセントです。それから住宅は1人当たり50平米くらい、業務その他の用途は1人当たり33.3平米くらいで計画して、1000パーセントの中に当てはめてゆくとどうなるかというと、図の右側のようになります[fig.2-05]
想定1=住宅と業務を半々にした場合で、想定2=住宅が倍で業務を半分にした場合です。この表のように当地域は20、30年後に80パーセントが変わったとすると、この地域の人口は16万人になり、港区の全体の居住人口が27万9800人です。港区の居住人口は、一番多かった時は34万人住んでいましたが今は17万人ぐらいに減っています。一度14万人くらいまで下がったのですけれども、都心回帰ということなのでしょうか、また最近増えてきています。容積は1000パーセントにすると想定2では人口は33万人くらいになります。つまり、1000パーセントに増やしても、昔の人口くらいにしかならない。さらに、昔は密集した所に1人あたり狭い面積に住んでいたのですが、今度はゆったりと広い面積のところに大勢が集まって住むことができます。
fig.2-05【拡大
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