プロローグ

●リノベーション技術をめぐって
太田──青木茂さんが公共建築をつくる時に、設備技術士はものすごいスペシャリストで、ものを見る目の解像度の高さ、もっているデータの量が違う、と言われましたが、それが非常に印象的でした。地域ということがある一方で、技術に対する造詣がいかに必要かを学びました。

松村──青木さんはコストを第一義にやっています。結局古いものを生かすからにはコストが重要だということで、細かなレベルのコストコントロールをされています。特にこの分野は誰がコストコントロールでイニシアティヴをとるかが決定していないので、青木さんがコストコントロールを一義にもってきてリファイン建築をやっていることは、真っ当な戦略です。そうでなければ、リノベーションのコストコントロールもゼネコン的世界に埋没してしまい、結局ゼネコンがすべてをコントロールすることになってしまう。そして最終的にはゼネコンすらコントロールできなくなり、新築のようなつかみどころがないものになってしまう。本来リノベーションは利用者に近い行為なのに、コストコントロールも含めてどんどん手放していくと、本来はもっと面白いものになる可能性があるのに、結局新築と同じレベルになってしまう。そういう意味で、コストにこだわる青木さんのお話は示唆的だと思います。

難波──松村先生の話では、これからは部品と地域で真中の建築に可能性はないという総括ですが、この考え方は松村さん自身の立場を反映したイデオロギッシュな意見だと思いました(笑)。それはとてもよく理解できるし、僕も基本的にそうだと思います。ただ補足して言うと、基本的に最初の5回の方々には単体の建築において部品をインテグレートしながら、最終的には地域に開いていきたいという意識があるのだけれど、それを仕事として展開していくのが難しいので、歯がゆい思いをしているという状況にあるのだと思います。青木茂さんには明らかに都市、地域志向があります。世代的には青木さんや近角真一さんは都市から撤退した世代で、僕もそのひとりです。そういう世代が現在もう一度都市に帰ろうとしているのだけれど、その時に「都市」ではなく「街」という言い方に代えて、少し小さいスケールで開いていくという発想をとるようになっている。それがリノベーションに繋がるのではないかと思います。
とはいえ僕にとっては最初の5回のフォーラムが一番わかりやすかった。後半になるにしたがって、だんだんわからなくなってきて、第11回の「家守」あたりになると何もわからない(笑)。わからないというのは別に否定しているわけではなく、苦手というか自分には欠落している部分なのです。「家守」は広い意味での計画学のような話だと思います。僕は基本的に計画学不信で、そういった目に見えないソフトな部分からハードな都市や建築のデザインが生まれるとは信じていないので、そのようなことをやっても、最終的には建築にはならないだろうなァと思いながら聞いていました。
フォーラムの後になるにしたがって、僕にとっては理解しにくいテーマになっていきましたが、ともかくリノベーションのバックグラウンドを勉強させていただき、非常に難しいジャンルだとよくわかりました。でもやはり僕は最初の5人の仲間に入りたいですね(笑)。リノベーションの技術は大体わかってきたということで新鮮味がないというのは、確かにそうなのでしょうが、それを実現するためのバックにある問題はもっと大きい。そのバックにある問題と関連して、リノベーションがうまく展開していかない理由が、後半のわかりにくいジャンルということかもしれません。そういう意味では目からウロコが落ちることも何度かありました。

難波和彦
▲難波和彦氏


太田──中谷ノボルさんは昔の古い水栓器具を残したほうがよいという指摘も頂きましたし、外から設備を変える安孫子さんのお話などにも、技術的な課題がいくつか出てきたと思うのですが。

難波──給水のヘッダーは実際に自分の設計でも使っているので知っていましたが、集合住宅でも戸建てでも排水にヘッダーがあるという安孫子さんの話しにはびっくりしました。最近何とか使おうとしていますが、その技術は非常にすばらしいと思いました。排水は自然勾配でという時代ではなくて、快適に排水できる技術が徹底して研究されていることもよくわかりました。近角さんのときのスケルトンインフィルもそうです。

司会──ここで、当社の設備系社員に確認してみたいのですが、安孫子さんの回で出ていた強制排水システムは特殊な施工例なのでしょうか。

社員A──強制排水を、特に圧送のほうで導入できないかと試みたのですが、実際には普及までには至りませんでした。圧送と真空排水があるのですが、実際にはあまり普及していないのが現状です。普及しない理由は、コスト面だと思います。

PREVIOUS | NEXT

HOME