プロローグ

●ファイナンス、マネージメントへの視点
太田──次に第6回の斎藤広子さん第7回の田村誠邦さん第8回の石山修武さん──石山さんはちょっとまた別の系統だと思いますが──、次に第9回の姜裕文さんのお話がありました。リノベーションフォーラムの中で企画や運営の話をこのようなプロポーションで取り上げたのは画期的なことだと思います。難波先生はわかりにくかったとのことでしたので、どのようにわかりにくかったか、是非お話しください。
太田浩史
▲太田浩史氏


難波──わかりにくいというのは、僕にとってまったく新しい視点だからです。姜さんがやられている建築のファンド化や証券化は、不動産に投資はするけれども、それを売ってしまうのではなくて、賃貸アパートに変え、そこから上がってくる毎月の家賃で少しずつお金を返却していく。マンションをつくって、それを売って資金を回収するやり方がイノベーション的な態度だとしたら、姜さんがやられているファンドは不動産の世界でのリノベーションだと言っていいと思います。投資した成果を売却して儲けるという方式ではないようなお金の回し方があるというお話で、僕にとっては目から鱗が落ちるような新鮮な話題でした。何よりも、投資とその回収を長い時間をかけて計画し実行するというスタンスがすばらしいと思いました。このやり方は間接的には都市をどう変えていくかというテーマに繋がっていくと思います。時間をかけて都市を何とか変えていくと姜さんもはっきりおっしゃっていました。都市が変わることによって不動産価値が上がり、その結果として家賃が上がり、それによって投資の回収効果が上がり、それが新たな投資を引き寄せて、さらに都市が変わっていくというサイクルです。
田村さんもおそらく同じことを言おうとされたのだと思います。斎藤さんも、最終的にその建物が生き延びていくには、住んでいる人たちによる管理組合がしっかりしていないとだめで、そのことは単に手続きの問題やソフトのテクニックの問題ではなくて、一人ひとりのやる気が大事だとおっしゃっていました。それもお祭りをして何かするということではなく、じわじわと組織化していく、人間組織のリノベーションという感じがしたし、石山さんも同じようなことを言おうとしている気がしました。

松村──これはすごく大事な観点なのですが、大学で建築を教えている場面や建築の専門家同士で語り合っている場面では商売の話はしない。それはタブー、あるいは話す必要がなかった。リノベーションというのはまさに時間の流れの中で起こってくることなので、新築と決定的に違うのはそれ自体がプロセスだということです。そのプロセスの中にリノベーションという行為が位置づけられていく。だから経営の問題で、どうマネージメントしていくかというプロセスが重要になってくる。その時にファイナンスの付け方、合意形成の仕方、誰が経営するのかという問題があります。さらにマンションの場合には管理組合の問題がありましたが、マンションには経営者がいないという決定的な問題があります。プロセスがあるのに誰も経営していないという問題があって、誰が主体的にこの環境を経営していくのかという観点に立てば、管理組合が最も重要であることは歴然としているのですが、なかなかそのような観点では考えられていない。この2番目のグループの方々は昔からそれが大事だと考えていて、それがリノベーションになって初めて僕らと接点をもってきたわけです。

太田──なぜリノベーションをするのか、という動機についてわかりやすく答えていただいた気がしました。新築の場合は家をもつのが夢だったとか、子どもが生まれることが動機だったりしますが、リノベーションの場合、動機が非常に難しい。姜さんが資産価値は長期的な利回りの中で生まれるものだと指摘されていましたが、それは大きな示唆のように思いました。

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