Renovation Report 2006.3.20

『リノベーションの現場──
協働で広げるアイデアとプロジェクト戦略』出版記念会
リノベーション・スタディーズがのこしたもの──難波和彦
運動体としてのリノベーション──五十嵐太郎
触媒としての「リノベーション・スタディーズ」──新堀学

運動体としてのリノベーション──五十嵐太郎
五十嵐太郎──この会場には、今までの「リノベーション・スタディーズ」に関わられた方が、結構集まっているので、リノベーション運動体の決起集会のようなそうそうたる顔ぶれになっていますね。この前に、「にっぽんミュージアム」のNPO総会があったので、簡単にいきさつを説明します。
もともとタマダプロジェクトでNPOを立ち上げようという話が5年程前からありました。とはいえ、いきなりNPOを立ち上げるのも難しいので、まずはなにかシンポジウムから始めようというところから、「リノベーション・スタディーズ」が始まったんです。「この会場を使って、できることからやりましょう」という話がきっかけでした。
第1期、第2期と「リノベーション・スタディーズ」をやって、ようやくNPOアートシンクタンクの中の一部である「にっぽんミュージアム」が立ち上がった。そういう意味でいうと鶏と卵というか、このNPOと「リノベーション・スタディーズ」はお互いにすごく関係しているんですね。
さきほどの難波先生の指摘によって、僕らが「リノベーション・スタディーズ」のセカンドシリーズでやろうとしていたことの意味が、より鮮明に浮かび上がってきたと思います。指摘されたように、非常に運動体としてのプロジェクト的な側面が強く、第2期が始まったのも成り行きみたいな所もあって、そんなに計画したわけでもないんです。
「リノベーション・スタディーズ」自体がある力を持って気がついたら第2期に突入していき、しかも現場に行ってやろうという形式がドライブして、僕らを導いていったような経緯が確かにあります。また、もともと建築とアートが接近する場としてNPOを考えていたし、このタマダプロジェクトの場所もそうだったんですけれども、比較的建築とアートが交わるようなテーマを第2期ではやや意識的に選んでいたのだと思います。
建築家としてのモノの見方の所は確かに薄くて、そういう意味ではINAXで難波先生が開催されている「リノベーション・フォーラム」と相互補完し、すみ分けている。僕らの方はアートと建築の交差する「運動体としてのリノベーション」というところにスポットを当てていたんだなと。さきほどの話を聞いてなるほどそういう位置付けになるんだなと感じました。

「リノベーション・スタディーズ」からはいろいろな活動が発生しています。まず、メンバーの多くが関わっているNPO地域再創生プログラム
が立ち上がりました。そこでは下田市の旧南豆製氷所の保存をめぐって活動をしていて、製氷所は残るという方向で動いていて成果が出ています。
また、第15回「リノベーション・スタディーズ」で皇居美術館構想を提唱された彦坂尚嘉さんが「アート・スタディーズ
を開始しました。そのようにさまざまな次の展開があって、それぞれがどういうふうに成長するのか非常に楽しみにしています。
一方で難波先生のご指摘にもありましたが、確かに景気がよくなってきていますので、リノベーションをめぐる現状は風向きが変わりそうな雰囲気もある。僕も姉歯問題で引き起こされた耐震偽装の反応として、中古物件やリノベーションに対する不安、耐震性能をめぐる状況は、起こり始めているリノベーション産業に水を挿すような流れにもなるかもしれないと思っています。
そういう意味では予断を許さない状況ですが、15回のシンポジウムのうちの後半7回がこうして本になったことで、ひとつの区切りが出来たと思っています。また、この本を手にとり、そこからまた活動や運動がおこり、展開していくことを願ってやみません。
五十嵐太郎氏
五十嵐太郎氏

触媒としての「リノベーション・スタディーズ」──新堀学
新堀学──さきほど、五十嵐さんがいわれた「運動体」という言葉にひっかけていろいろ思い出していました。僕自身も実際に参加して面白かった。なんというか、普通に設計をしていると出会わない人と出会わない場所で出会えるというのが、とりあえず第2期の1番の面白さだったような気がします。
結果的に自分たちが「リノベーション・スタディーズ」として動いて、現場に行ったことで、それが触媒となって実際に何かが起きたということもいくつかあると聞いています。そういう意味ではアクティブに体を動かして自分達からそちらに行く、ということの意味を第2期ではかなり感じることができました。
プラクティカルな視点から参考書として読むには実用的なデータは少ないのかもしれません。ただ率直にいうと、難波先生もいわれたコンバージョン研究会に私も少し参加させていただいていて、その時に感じたのは技術的な話しというのはもうツールとしてはだいたい出揃ってしまっているということ。逆に言うとそれをどう使っていくか、使っていく知恵の部分にまだまだ可能性があるのではないかと考えています。確かにモノ、空間としての成果も大事です。それは「使う」側の知恵と共に変わっていくものとして今後に期待していただきたいと言っておきましょう。
とりあえず第2期が終わり、われわれのなかでも一通りハード、ソフト、そしてさらにその向こう側にある「社会」が見えてきました。ようやく出口にたどり着いたというより、次の入口にたどり着いた感じがあります。
問題はそこからさき、どういう道に進んでいくのか。おそらく「リノベーション・スタディーズ」というチーム自体ではなく、また別の機関というか別のフォーマットになると考えています。ともあれ、ここまできた区切りとして本が出版されて大変うれしく思います。
新堀学氏
新堀学氏
BACK

HOME