Renovation Report 2007.2.23
グループホームへのリノベーション
「改修型グループホーム」に関するレポート
大阪市立大学 建築デザイン研究室 横山ゼミナール
文責=高田郁
調査・図版協力=黒木宏一、大原 洸


イントロダクション
Introduction
2005年に日本の総人口の20%が65歳以上となる高齢化社会を迎えており、多くの高齢者が、介護サービスを受けながら暮らしている。高齢者が受ける介護サービスには、福祉施設に通所し介護を受けるデイケア、ショートステイなどの「在宅系サービス」、高齢者が高齢者福祉施設に入所し、生活を送る、グループホームなどの「居住系サービス」がある。今回は、居住系サービスのひとつであるグループホームに関して、集合住宅を改修しグループホームへとコンバージョンとした「改修型グループホーム」を、《Hn》と《Sr》という2つの異なる事例を通して、紹介したい。なお、本稿は、平成18年度大阪市立大学卒業論文「福祉施設への転用事例にみる過ごし方に関する研究」をもとに執筆した。

プロセス
process
■《Hn》
5階建てのマンションの1階部分を改修し、グループホーム(以下、GH)とした事例である。 改修前のマンションでは、洋室1室と、和室が2室の3DKの住戸が、1フロアに5戸配置されており、また、外廊下は雨風が入る吹きさらしであった。コンバージョンする際に、1階部分のひとつの住戸のみ、そのままマンションの住戸として残され、ほかの4つの住戸が、GHとして利用された。その際、4住戸を利用するにしても、それぞれが独立したままでは、GHとして不便である。そのために、外廊下を施設内の廊下として室内化すること及び、玄関ドアを撤去することで、4住戸を連結している。さらに、障害となる床の段差を解消し、トイレや風呂といった設備を整え、新たに玄関を設けた。和室であった部屋はそのまま個室として利用されている。 また、改修前の住戸ユニットを明確に残すことによって、各ユニットのLDK空間が、リビング、ダイニング、洗面所、アルコーブ状のスペースなど4つの場へと変更され、個室に付随しているようなかたちで存在している。これが空間構成上の特徴である。なお現在も、2階から5階の住戸は、そのままマンションとして利用されている。
《Hn》平面図(上:改修前/下:改修後)
筆者作成
平面図ダイアグラム
筆者作成
《Hn》外観
筆者撮影

開設年月=2003年9月
所在地=大阪府河内長野市 
運営母体=有限会社
■《Sr》
マンションの2階部分を改修し、GHとした事例である。 改修前は、2DKの住戸が、6戸並んでいた。GHへとコンバージョンされる際、《Hn》とは異なり、住戸間の壁を取り払うことで動線が生み出され、5つの住戸が連結されている。加えて、改修前の住戸ユニットは解体され、ひとところに集約されたリビング・ダイニングと9つの個室の構成により全体で一つの大きなまとまりがつくられている。大幅な改造に特徴がある。
一般的にGHでは、《Sr》のように共用空間が一室化していることが多い。スタッフにとって、見通しが効き、高齢者を見守るのに便利なためである。そのために、《Hn》のような、分散した共用空間というGHの形態は、ほとんどない。しかし、《Sr》のような空間は、個室と、リビング・ダイニングの2つに入居者の居場所が、限定されており、生活の居場所選択の自由度が低い。また、スタッフにとっての見通しの良さを考えてはいるものの、逆に、入居者にとっては、常にスタッフによって見られており、入居者の自由・プライバシーの確保が難しくなっている。このような従来型のGHの空間に対して、《Hn》は、新たなGHの生活像を描出する可能性を有する。
《Sr》平面図(上:改修前/下:改修後)
筆者作成
平面図ダイアグラム
《Sr》
筆者作成

開設年月=2005年2月
所在地=大阪府枚方市 
運営母体=有限会社

入居者の生活
life style
GHでは、例えば、朝食後の体操、掃除、昼食後に、入居者とスタッフが一緒に歌を歌ったり、工作物を作るなど、リハビリを兼ねたレクレーションが行なわれるなど、プログラム化された活動が多く、一日の生活パタンが定常化しやすい。《Hn》《Sr》ともに、このようなプログラム活動が取り入れられているものの、改修前の住戸ユニットが明確に保持され、空間が分節されたHnとユニットが解体/一体化された《Sr》における入居者の過ごし方を比較すると、両者の差異が明らかである。

・居場所、過ごす相手の選択可能性
一日を通して、《Sr》では入居者の多くが、個室、あるいはリビング・ダイニングを居場所として限定的に過ごし、移動が少ない。入居者は、8人いるが、そのうちの特に5人は、一日の大半をリビング・ダイニングで過ごしている。一方で、《Hn》では、自由時間をダイニングだけでなく別のユニットのリビングや洗面所前などで過ごしており、居場所が分散・多様化する傾向がある。つまり、入居者がその時々の気分や過ごし方に応じて居場所を選択することが可能となっている。 さらに、居場所とも関連するが、《Sr》では、プログラム化された時間及び自由時間ともに、概ね一緒に過ごす相手が常に同じ顔触れでありさらに、6-7人の大きな集団となることが多い。 一方で、《Hn》では、自由時間に、1人でソファでうたた寝、1人・2人・3人でリビングのソファでテレビを見る、廊下で2人が立ち話、ダイニングのテーブルで3人がおしゃべり、ダイニングで4人がテレビや絵描きなど、比較的少人数で、随時異なった顔触れで過ごす傾向にある。入居者が一緒に過ごす相手を主体的・偶発的に選択している。
上:《Hn》
下:《Sr》
筆者撮影
・他者との出会い
入居者同士、あるいは入居者とスタッフとの偶発的な出会いによって、おしゃべりや一緒に移動するなどの新たな行為が発生した場面の数は、《Sr》では、入居者同士が6回(うち、ある入居者が半数の3回)に対して、スタッフとは39回の出会いがある。つまり、全体的に入居者の移動が極めて少なく、活動展開の契機は、スタッフとの出会いによるものが多く、入居者同士での新たな生活・活動の展開が少ない事を意味している。 一方で、《Hn》では、入居者同士が19回(入居者に偏りがない)、スタッフとが25回を占め、《Sr》に比べて入居者同士の出会いが多い。大半の入居者がリビング・ダイニング・洗面所・廊下・個室等の性格の異なる場所の間を頻繁に、気軽に移動することで、他者との偶発的な出会いの機会が増えることが、作用している。そのことが、結果的に、居場所や行為の多様性や、スタッフの誘導によらない自発性・主体性に結びついている。
上:《Hn》
下:《Sr》
筆者撮影
・ユニット化による自領域の拡張と明確化
《Sr》では、自室に近いトイレと遠いものを両用する入居者が多く、居る場所に応じてその近くのトイレが使用されている。一方、《Hn》では、ダイニングを除き、入居者は、たとえ別の場所に居ようとも、わざわざ自らの個室のあるユニット(自ユニット)に戻ってそこのトイレを専用的に使用している。自ユニットのトイレが自分の場所として認知されている。 また、入居者毎にリビングを使用する場面数をみると、リビングを含むユニットを自ユニットにしている入居者が、各々総場面数13回のうち、12回と最もよく利用している。また、一人で過ごす場面の5回/6回(全体)が自ユニットの入居者であり、リビングはそこを自ユニットとする入居者の自領域と認知されている。

以上のことから、ユニット化されることで各自が帰属するユニットが明確になり、入居者は、自ユニットを自領域として認知しやすいこと、また、個室廻りの共用空間は、自領域の延長として捉えられ、その利用が促進される。
リビングの利用状況
註=この表は、誘導以外の場面での、L空間における入居者の滞在場面数である。総場面数は、13場面である。
《Hn》のリビング
リビング周りの個室の入居者が、自発的にテレビを見る、自分の洗濯物をたたむなど、個室での生活が、リビングにまで見られる
筆者撮影
集合住宅を改修したGHでは、改修前の住戸ユニットを保持することで、共用空間・トイレなどの水廻りといくつかの個室で構成される分節化された小規模ユニットを計画することが可能となっている。それは、居場所や一緒に過ごす相手の多様化、移動の促進による行為の自発的な転換や新たな行為の触発にもつながっている。また、入居者は、帰属するユニット全体を自領域として認知する傾向がみられ、個室以外にも「自分の場所」であると意識できる場所があることは、環境への順応性、場所に対する愛着や認知力を高めるとともに、それが個室廻りに位置することで、公私領域の緩やかな変化につながり、個室から生活行為を引きだし、生活の主体的な組立てに寄与している。

結論
conclusion
高齢者福祉施設での生活は、施設での自らの生活はもちろん、その施設内における入居者とスタッフの関係性に影響されるものの、生活を支える空間からの影響は大きい。そのため、今後のさらなる高齢化にともない、高齢者福祉施設での生活の質の向上がより求められている現在では、従来の専用施設に見られるような確固とした施設形態(ビルディングタイプ)を見直していく必要があると考えられる。一方で、コンバージョンされた事例のなかには、福祉とは異なる用途として使われていた建物を使うことで、福祉施設の枠組みにとらわれない新しいGHのあり方が示唆されている。このような新しい生活空間の思わぬ出現に、コンバージョンのひとつの可能性があると考えられる。

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