Renovation Interview 2008.9.30
美術と建築を横断し、社会を知る──金沢におけるCAAKの試み
[座談会]吉村寿博×鷲田めるろ×林野紀子 進行:新堀学+倉方俊輔
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《金沢21世紀美術館》はオープンから4年、「いきいきプロジェクトin金沢」や「金沢アートプラットホーム2008」をとおして活動の舞台をまちへと拡大している。一方、昨年末に誕生したオルタナティヴスペースCAAKは、レジデンス施設をかねた金沢市内の町家に拠点をかまえ、レクチャー、パーティ、ワークショップ、展覧会などをゲリラ的に開催している。
今回は、そんな金沢の町で活躍するCAAKの運営メンバー4人に、金沢のポテンシャル、オルタナティヴスペースの意義、美術と建築によるまちづくりのあり方、そして彼らの活動の戦略を語ってもらった。

2004年以降の金沢──《金沢21世紀美術館》の影響
倉方俊輔 まずはじめに、《金沢21世紀美術館》ができたことによって、金沢の町全体にどういった影響があったか、また、どのようにしてCAAKにつながっていったのかをお話しいただけますか。
鷲田めるろ ひとつの別の扉は開けられたかなとは思っています。これまで金沢では、有名な西洋近代の絵画展を見に行くというようなこと以外には美術を意識するきっかけがありませんでした。また、いまでも伝統工芸展にはすごくたくさんのお客さんが来られて、そういう人たちは、毎年見ているから今年は去年と比べてどうだと話してくれるし、コレクターもたくさんいますから、金沢でもやっぱり伝統工芸というのは非常に強い力を持っていると感じます。でも、それ以外の美術をひろく知るための窓口を示せたと思っています。
また、新しい施設ができてそこに人がたくさん行っているようだというかたちで、もともと美術に関心のなかった人が美術の存在を認識する契機になっているかもしれないですね。だから、金沢の美術界への影響というよりも、美術界の外、美術界じゃない人たちへの影響はあったといえるかもしれない。つまり、新しい観光地ができたというようなことですね。
鷲田氏
吉村寿博 建設中は美術館に関心のある人があまりいなかったように感じました。美術館側はプレ・イヴェントも結構やっていたのですが、あまり知られていなかったのかもしれません。もちろん美術関係の人は、みな楽しみにしてくれていました。美術館がオープンしてからは、人がたくさん入って成功しているということがダイレクトに伝わりますから、どんどん来てくれるかたちにはなっていると思うんですが、それでもいまだに美術館に行ったことのない人も結構いると思いますよ。
《金沢21世紀美術館》では、静かに鑑賞するだけではなく、子どもが走り回るようなことを許容している融通性があります。オープン直後には美術館がミュージアム・クルーズという企画で金沢市内の小中学生を順番に招待していました。現代美術は難解なものではなく、子どもが純粋に楽しめる場所だということ、また、子どもに連れられて家族で美術館に訪れたり、美術館側の仕掛けによってたくさんの人が訪れてくれるようになっていきました。そのような流れを経て、美術館に対する接し方が徐々に変わっていったような気がします。美術館といってもいろんなタイプがあって、まちの一部として賑やかに使われるような美術館だということをみんなにアピールして、それが浸透しつつあるんだろうなと思います。そういう意味では、アートに対する裾野を広げているんじゃないかと思いますね。
倉方 あの場所にああいう形態のものが建っているという《金沢21世紀美術館》の建築的な特性が、まちの活性化につながっていると思いますか?
吉村 僕はSANAAの一員として設計監理を担当していたわけですが、プロジェクトがはじまったときに、市長が街中に人を呼び戻したいとおっしゃっていたんですね。「街中から郊外へ大学が移転することなどにより、かつての賑やかさが失われてしまった。美術館が核となることで、かつての賑やかさを取り戻したい」と。気軽に入れるというイメージから「割烹着でも来られるような美術館」ということをおっしゃっていて、そもそもSANAAは格式高い建物をつくるほうではないですし、町の中心部にあるという立地条件からみても、誰でもどこからでもアプローチできる丸い平面を提案したのはとても理にかなっていたように思います。市長のイメージとわれわれSANAAのイメージ、そしてキュレーターのイメージがとても高い次元で合致した建築になったと思いますね。
吉村氏
林野紀子 まちにつながっているとすれば、無料ゾーンがすごく効いていると思うんですね。土日だったら夜の10時までやっているし、ジェームズ・タレルの作品とか、あるいはマイケル・リンの作品なんかを、誰もがふらっと入って見ることができる。その心理的な壁の低さというのは、すごくいいほうに作用しているんじゃないかなと思います。
私は美術館ができた後に来た人間なので、その前のことは正直よくわからないところもあるんですけど、《21世紀美術館》ができて変わったなと思えるのは、いろんな人が来るようになったということです。もちろんこの建物は、美術館がすごく成功した事例として世界中に認められているということが、世界中からいろんな人を呼んできているわけですが、そのことで、見に来たついでにCAAKでレクチャーしてもらうとか、CAAKに宿泊してなにか触れ合いや交錯が起こるとか、そういう波及効果が生まれているのはすごく大きいと思います。
新堀学 CAAKみたいな活動をしたいと思っていたけれど、きっかけがなくてできなかった人たちがここに来ているのか、それとも、皆さんのように外から来て金沢を面白がる人たちがCAAKの主体なのか、どちらですか?
吉村 美術館に来てくれそうな人と重複するかもしれないですけど、CAAKのやっているなにかに興味のある人は繰り返し来てくれますね。参加してくださっているのは、基本的には地元の人が主体になっているように感じます。
新堀 それは美術館が触媒になって掘り起こされてきた人たちとも言えますよね。
吉村 そうですね。金沢は文化が高いので、そういう人たちはたくさんいると思うんですけど、それぞれの人が個々に活動していたのが、CAAKのような活動を通じて徐々に交わっているというか、少しずつ変わっていっているような気がします。»
林野氏

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