プロローグレクチャー

●コンバージョン/用途変更と法規制
太田──ひとつ質問があります。空間的な問題が重視されていると思うんですけれど、言葉の定義がてら言いますと、リノベーションというのは、語感としては建物全体を一新しなくてはいけないという意味で、リフォームは部分を変えるというような意味です。では、コンバージョンと言ったときには用途を変えなくてはならない。つまりもうここに写真スタジオがあってもしようがないから、ここに住みたい人を呼んでくるというように、用途を変えるということです。
リノベーションで空間的にどういうふうに読み替えてきたかについて話をしていただいたのですが、この建物はコンバージョンも同時にやっていて、用途を変えられている。その用途を変えるときに、何を考え写真スタジオから住居にしたかという点についてお聞きしたいのですが。

國分──経済的な話からいくと、現在は共同住宅には不算入があるので、既存の建物は容積ぎりぎりに建っていたのですが、共同住宅にすると容積をプラスできる。また、北側斜線や道路斜線の法規は甘くなっているので、上には積めるはずです。それで、許容床面積が余っている分、最後に屋根を架けた30平米分というのは、そっくりそのまま不算入の階段室分の面積ですから、それは有効活用です。要するに、純粋にお金の問題から考えると、貸し床が増えれば増えるほどプロジェクトは成立しやすくなるので、集合住宅を供給しようとすると、コンバージョンには有利な点があります。

池田──太田さんが言われたとおりコンバージョンというのは「用途変更」なので、実は空間は変わらなくていいんです。同じ空間のままで、建築家は何もしなくていい。例えば今まで倉庫だったけれども、布団を持ってきて明日から住むことにしましたというのが、究極のコンバージョンです。逆に言うと単なる読み替えですから、難波先生がおっしゃったように、われわれは少し手を入れすぎたのかもしれないですが、いかに元々もっている価値を残すかということにポイントがあるということです。元の価値を残すために必要最低限のことをやるのがコンバージョンで、元の価値を消し去るというのはコンバージョンではないわけです。そこにポイントがあるのではないかなと思います。

國分──住居とはこれこれ、オフィスとはこれこれというような、用途という定義そのものが、現在の建築の世界ではそれほと切り分けられなくなっていると思います。けれども、やはり基本的には法律体系の問題で、今回の建物の申請を出しにいったときも、こんなに手を入れるのだから用途変更や改修だと思うし、さらに増築部分もあるのですが、法律の立場から見ると、何がどう変わったのかについて明確にしなくてはならない。法律体系もまったくそのようにはできていないから変な話で、用途変更には、その面積に対して半分のお金を出すんですが、増築部分はこのなかには含まれないわけだから、それはプラスしないとだめだ、という話に役所ではなりました。用途変更はコンバージョンと言ってますけれど、用途変更という言葉そのものは非常に旧体系の話かなという気がします。

池田──都市環境の話をするときは、よく都市というのはできるだけ用途がミックスしているのが正しい姿で、多様な空間が多様な使われ方をするのが都市的だと言っているにもかかわらず、建築を設計するときにはまず用途を決めないと法律的には通らないというのは、すごく不思議な感じがします。妙な話なのですが、今回、実質的に写真スタジオからのコンバージョンでしたが、この建物の元々の法的な用途は事務所併用住居でした。おそらく当時写真スタジオなどでは申請ができなかったんです。それで、申請用途ではない用途で使っていたため、実質的にはコンバージョンだけれど、法的にはコンバージョンにならないという非常にねじれた状態が起きています。

國分──今回のケースは住宅から共同住宅にコンバージョン、特殊建築物へと変えるのだから、用途変更でしょうということでした。

太田──確かに設計するときにも、用途と空間がくっついていて、住宅は道路側に向けてバルコニーがあって、事務所はカーテンウォールがあり、天井高の標準はこれくらいであるというように、設計するほうもすり込まれている。ですから、べったりくっついている用途と空間を引き剥がすトレーニングとしてもすごくいいですし、最終的にはすべて空間の力だと思います。空間からフレキシブルに用途がつくられているという感じがしました。

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