プロローグセッション
●どのようにリノベーションしているのか
[CASE1 集合住宅]
fig.16はマンションです。天井をむき出しにして、そこにペンキを塗り、配管を見せて天井を高くしています。床は無垢の板を張って、特別なマットで防音対策をすることが多いです。壁もクロスを取ってしまってペンキを塗るとか、お客さんによっては自分で塗る人もいます。これがうちではすごく典型的なリノベーションのベーシックモデルみたいな感じです。

fig.16・17

fig.17は先ほど平面図(fig.08)で見ていただいたものを改装したもので、手前が玄関を開けたところです。開けてすぐのところが廊下だったのをぶち抜いて、キッチンも、例えば友だちがきたら座ってもらったりとか、朝食はここで済ますとか、廊下を使ってこういうカウンターにしています。それで、作業は向こうからするモルタルのキッチンをつくる。奥に張られているフローリングはチークの無垢板です。私の実家が材木屋だったものですから、こういう素材は今でも安く手に入れることができるので、9割以上は無垢の板を使います。
次の例はドアを開けると、玄関、DKとがリビングと一体になっている。その空間の右側に、寝室とバスルームが一体になっているというものです[fig.18]。この住居は2人家族を想定していて、実際購入された方も2人だったので、トイレを仕切りませんでした。お風呂はユニットバスのハーフモデル、腰下半分のをいれて、上にタイルを貼って、それでサッシュを入れてつくっています。普通マンションでは洗面所は狭いですよね。それを広く感じるように、ここだけで部屋という意味で「バスルーム」と名づけています。 fig.19もまた洗面所のパターンなんですけど、この洗面器はINAXの医療用のものにINAXのバス水栓をつけてつくったものです。これも私が設計をしているんですけれども、これでええやんというふうに思っているんですね。やっぱりこれをするとね、同じパターンでやってほしいというお客さんが出てきます。隣りの便器はよそさんのものかもしれなくて、同じホワイトでもちょっと微妙に色合いが違いますよね。これはちょっと自分でミスったと思うところです。
fig.18 fig.19

fig.20
fig.20も集合住宅の例です。いわゆる団地といいますか公社が分譲した物件です。メゾネットになっている古いものなんですけど、これを買われた男性の方はグラフィックデザイナーでありながら、実はファイトマネーをもらってやっているプロのキックボクサーでもあるんです。で、リノベーションするにあたっては、ジムに行って練習しているけれども、こういうサンドバッグを家の中にも置いておきたいと。それで、こんな住宅になったんですが、やっぱり先ほども言ったように室内には仕事や趣味がものすごく反映されるようになってきた。また、そういうライフスタイルがいいと、クライアントは思われてこんな部屋になるんですね。

[CASE2 一戸建て]
つぎに戸建てです。この辺からちょっと、大阪と東京の市場の違いがあるかなと思うんです。東京ではみんな都心に住みたいというのがあると思うんです。お金持ちっぽいですし、実際お金もいりますし、本当に都心にいい住宅街がありますから。港区とかいったらかっこいいイメージでしょう。しかし、大阪で港区というのはすごくダウンタウンなんですよ。だから、大阪ではみんながみんな都心に住みたいなんて思っていなくて、どちらかというと郊外のほうがいいじゃないかと思っている。まあ郊外といってもタクシーで3000円とかで帰れるようなところですが、いわゆる普通の住宅街があるんです。しかし、私は会社をつくってからずっと都心居住をどんどん推進しようということを言うてます。大阪では都心はごちゃごちゃしてていややとか言う人が多いんですが安いんです、2000万円あればで中古の一戸建てが買えるんです。さらに現在もだんだん安くなってきていますので、去年あたりからはリノベーションといっても、集合住宅より一戸建てにお客さんがシフトしてきています。東京と大阪その辺がちょっと違うところかなと思います。

fig.21
これのある場所は、大阪の中心部から駅3つ、4つ南に行った文の里というところです。おそらく何かの事情で安く流通したものです[fig.21]。そういう物件を、私どものスタッフがお客さんに紹介したり、あるいは逆にお客さんが別の不動産業者さんで見つけてきて相談にこられて、購入を決定する前にどんなリフォーム、リノベーションをするか、そのコストはいくらぐらいかというのをうちのスタッフが提案する。間口は狭いですけど、奥行きのある結構大きな家で、これを千数百万円くらいかけて改装されています。

駐車場のほうから玄関に入っていって、これが2階です[fig.22]。このように細長い空間をリビングにされています。一角にこういう仕事するスペースも設けられている[fig.23]。一部吹き抜けをつくったりもしています。洗面所はこういう感じで、ボールを買ってきて入れただけのつくりとしています[fig.24]。一階にはにバイクとか置いてます[fig.25・26]。家族二人で住まれていまして、ご主人はゲームメーカーのサウンドクリエーターでゲーム音楽をつくっているそうです。
fig.22・23
fig.24-26
この物件は、最近のアートアンドクラフトのお客さんのパターンでいうと典型的な例です。築20年くらいの一戸建てを購入してリノベーションする、最近本当にうちでは多いパターンです。

fig.27
[fig.27]は、また築80年くらいの古い家なんですが、オーナーと相談して若い人向けに賃貸住宅化しました。写真は改修したあとです。こういう古い家の場合は商品戦略を練ってオーナーに提案します。いわゆるデザイナーズ長屋みたいな手法も取れるんですけども、マーケティングというかヒアリングのような感じで、古い状態で何人かに見てもらいました。そしたらこの古い状態のままがいいと。ただ、いまのままだと汚すぎるので住みたくないと言われて、であればその古いよさを残しながら改装していったらどうかというのでやりました。そうしたほうが当然コストも安い。内装は壁を塗り替えたくらいで、あまり変えてないんです。
このような長屋が全体で10区画あって、これまで70、80代のおじいさん、おばあさんが多く住んでいられましたが、出ていかれたあとをリノベーションして、入居者を若くするようにどんどん変えていっているところです[fig.28]。土間を復活させています。もともとの入居者が勝手に床をつくったりしているんですけど、あえてまた土間を復活させています[fig.29]。また坪庭だったところに、入居者が勝手にトタンをかけたりしていたんですが、そういうのも取り去って庭を復活させたりしています[fig.30]

fig.28-30



fig.31は、もとの状態、建築された最初の状態に戻したような感じです。入居募集のときに和室にこういう設えをして[fig.32]、入居を考えている人達にイメージを伝えてあげないと、この昔風の家にどう住んだらいいのかなかなかわからないわけですね。特に若い人はイメージをもっていないので、こうやって家具をみせたり、古い家なんですがあえてシャンデリアをつけたりして入居募集しています。でも、こういうのが出ると、すぐ埋まるんですよね。
築80年の家ですから、建築当時は当然お風呂なんてない。最新のユニットバスなんかを入れるとすごく違和感がでると思うんです。それをもとにイメージに合う風呂をつくるべきだと思って、モルタルとステンレスの浴槽でつくりました[fig.33]
fig.31 fig.32 fig.33

[CASE3 オフィスビルのリノベーション]
左:fig.34/右:fig.35
次に、ビルに住みたいという人に対してのリノベーション事例です。
これは自社で販売した物件です。これが元の状態で[fig.34]、築37年くらい経っています。ビルといってもすごい小さなもので以前は文房具屋さんでしたから、一部が倉庫にもなっていました。
[fig.35]は改装後ですね。よく見てください。おわかりのように、フレームを塗ったくらいで、外にはそんなにお金かけていないんです。でも実は、この前面のタイルが今ではなかなか手に入らないタイルで、これがかっこいいとか、サッシュも実はこれスチール・サッシュなんですね、だからガラガラーという音がするけれどこれがかっこいい(笑)、というふうに私もお客さんも思いました。そして購入された方もそうおしゃっていました。
fig.36は2階の事務所があったところで、これも、天井を取ってコンクリートを露出させています。柱に巻いているタイルは、新たに貼ったんですが、実はこのタイルも今では商品化されていないものを、あるタイル・メーカーの担当者に頼んで倉庫の奥に眠っていたものをごそっともってきてもらって貼りました。そういう、ちょっと演出的なことをして昔の建物をより生かすようにしているわけです。このビルもまた、販売のときにはアンティークの家具やシャンデリアをつけました。
fig.37が3階のバスルームです。このタイルは、INAXタイルじゃなかったかなと思います。この石鹸入れも最近使わない古くからの商品なんですが、こういう古い建物には結構合うんですよね。
左:fig.36=2階/右:fig.37=3階

 左:fig.38/右:fig.39
fig.38は上とよく似たビルですが、規模がもうちょっと大きくて6階建です。大阪のかなり都心部にあって、もともと大阪の中心部というのは船場とかを含めて、繊維関係の会社が結構多かったんですけども、ここもそういうところだったんです。fig.39のような会社だったんですけど廃業してしまったわけです。このビルは正式に建築確認を出して、コンバージョンして賃貸住宅になる予定で現在工事中です。
これは完成予想図です[fig.40]。リノベーションのコンセプトは、デザインで言うとアール・デコとモダニズムのちょうど間くらいの時代のデザイン・イメージ。だからあえてスチールのものをいろいろ付けています。
fig.40 fig.41
fig.41がエントランスホールです。左側にある門扉を開いて入ったところにある小さなエントランスホールですね。いまのマンションはだいたい、インターフォンで中の人を呼ぶじゃないですか。でもこのビルの場合は、それよりも時代性を出したいと思って、アンティークな電話を見つけてきて、エントランスに置いたわけです。それで各階の部屋の番号を、例えば42号室なら42とまわして、インターホンの代用にしたわけです。ドアもイギリスのすごいアンティークです。それに最新のオートロックキーを無理やり仕込んで、部屋から鍵を開けて入れるようにという演出をしました。
fig.42
これは上からみた中のプランです[fig.42]。ワンフロアー2戸。50平米と40平米の部屋がだいたいメインです。それくらいの広さなら2DKという間取りが一般的には多いんですけど、ここはワンルームにしました。ベッドのあるところも部屋にせず衝立を立てたような感じにしました。右下にあるところがベッドですけれども、リビングからグッとまわりこんで、ベッドスペースがあって、その奥にまたクローゼットがあるワンルームです。また、キッチンも既製品を使わずに、現場で鉄パイプの足にタイルを貼ったようなものでつくっています。
住居は9戸しかないんですが、募集を始めたところ早速ばばっと3戸申し込みがありました。これはちょっと楽しみな物件で、竣工するまでに全部埋まればいいなと思っています。
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