プロローグレクチャー

●ティッシュ――サービスの担い手とシステム
安孫子――団地の再生ではティッシュが重要だという話をしましたが、その担い手はいろいろなところからアプローチがあるのではないかと思います。ひとつはやはり、ガスと電気を供給しているところです。
現在コ・ジェネレーションや燃料電池の実験が進められています。これは発電させて、電気と熱の両方を出します。あるハウスメーカーは北海道でコ・ジェネのマンションをつくりました。普通コ・ジェネで発電したものは共用部電源にするくらいですが、そこでは発電した電気を初めて各住戸の電源として供給した。一方、出た熱は融雪に使って、燃料費は3割安くなったそうです。「すごいじゃないですか、そんなに安くなるならどんどん宣伝してください」と言ったんですが、「今はデータを取っている段階でまだ公表できません」ということでした。エネルギーを中心にそういうことがもうすでに始まっています。これはガス会社やハウスメーカーの共同事業です。同じようなことは、例えば住宅管理会社も可能かもしれない。管理会社は、どちらかというと管理組合に対して一生懸命サービスするわけですが、次のステップとして、そこでコミュニティを復活させる、新しいシステムをつくるという方向に動き出せば「なんとかコミュニティ」という会社がひとつの基盤をつくることもありえます。当然、電力もあるでしょうし、ゴミの処理やリサイクルなどの事業が、団地に新しいシステムを提案することもあるかもしれない。今は原型としてある単機能でやっているものが、あるとき突然そういうかたちに変わって、ある団地を引き受けてやっていくなかからシステム化されていくと、現実的に動くのではないかと思います。

難波――給排水関係の会社が、そういうジャンルに参入できる可能性はないのでしょうか。

安孫子――給水屋さんと排水屋さんはもともと企業的なニュアンスが「公共サービス団体」なんです。みな自治体の公共事業としてやっていますが、給水システムについては、民間にある程度開放する、委譲するという話が出始めているので、中水その他をやっていくことはあると思います。エネルギーの場合は一種のESCO(Energy Servic Company)事業で、いろいろなことをやって安くなった分で何かがが戻ってきますというシナリオができるんです。水の場合も節水型便器を普及させて、それで節約できますということをビジネス化したり、そういう方向はあるかもしれない。ただ水の値段がそれほど高くないので、水道料金がものすごく高くなってくればそういうことはあるかもしれませんし、ほかのエネルギー産業と合わせてやることもあるかもしれませんね。

松村――普通のマンションではほとんどやっていないけれど、超高層のマンションだと、自分のところに処理施設を入れていますよね。ある程度の規模になるとそのなかで下水をある段階まで処理しているわけですけど、例えば超高層マンションの規模になったら、それをもう1回中水にまわしてなんとかするという方法でやれるんですか。その場合、総合的なサービスはどれくらいの規模のイメージですか。

安孫子――単棟のタワー型のものでは、そのなかに何百戸という規模で入れて、あとは管理費、共益費でバランスすることはできますけれど、団地形成されて何棟かあるものをどうつなぐかということになりますと、そこにビジネスとしてのモデルがないとつながらない。単棟のものは一番シンプルだと思います。団地の再生で一番問題になっているのも、たくさんある団地が、こういうようなコミュニティのなかでやっていくのがなかなか難しいということです。
ヨーロッパの場合なぜうまくいったかというと、社会主義国家ではほとんどの団地で地域暖房をやっていたんです。ものすごく寒いから、猛烈に大きなボイラーから蒸気をばんばん出して、断熱材なんてほとんど入っていない住宅のなかに、熱をぼんぼん供給していた。ところが、そういう費用を国がもってくれなくなって、自分たちでどうにかすることになったら、まず断熱をする。断熱するだけで多分半分くらい燃料代は減っていると思います。それで効率のいい機器を使うと、今まで使っていた油代石炭代なんかがものすごく減って、その分の差額がその団地再生の原資になっている。暖房が絶対必要な寒い地域と違って、日本は石油ストーブくらいでなんとかなるので、そういう話だけでは再生の機動力にならない。だからもう少し付加価値のある多面的な、団地を対象としたビジネスライクなシステムが出てくる必要があるのかなという気はします。

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