プロローグセッション
●八女市での試み《福島中学校体育館》/社会への提案
fig.3-01
《八女市多世代交流館》が終わってから2年経過して八女市長さんから電話がありました。市内の福島中学校というところに体育館があって、役所の職員がそれを青木さんに設計させてはどうかと言っているので、今度は特命で出しますからやりませんか、ということで飛んでいきまして、手がけた仕事です。
八女の伝統的な建築があるエリアの端にかかるところに、全国のどこにでもある学校がありました。この旧来の学校のあり方に少し異議を申したいと思い、このような体育館をリファインで作りました[fig.3-01]。プログラム的には体育館をリファインでつくり変えなさいということと、剣道場を別予算で増築しなさいということを言われました。
この体育館は築40年を経過していまして、耐震調査をした福岡県の建築センターと共同作業で取り組みました。まず壁でサンプルを採りましたところ、コンクリートの中性化が90パーセントを超えていて特に室内側の状態が非常に悪いということで、それをどうするかが今回のリファインの最大のテーマでした。東京大学の野口貴文先生が中性化の権威ということでご指導を仰ぎましたら、圧宿強度的にはあまり心配しなくていいが、風化を抑えなさいということでした。学者の先生のご指導を全部聞くとかえってどうすればいいのかわからなくなるので、その一点だけをやろうということで設計したものです。
既存の建物の特徴として、ボックス形の形状がありましたので、これを活かしたいと考えました[fig.3-02]fig.3-03は解体が終わった状況で、結局四隅四方に耐震壁を設けて水平力を負担させる。あとは軸力をどうするかということを考えました。

fig.3-02:リファイン前 fig.3-03:解体完了

リファイン建築」というのは仮説を立てる作業ではないかと考えておりまして、今後30年間でコンクリートの柱が風化し、30パーセント細くなるという仮説を立てました。もちろんそれぼど風化し、細くなることはありませんが、ひとつの仮説を設定してみるわけです。水平力は先ほどの四隅にコンクリートで壁を造り耐力壁としまが、軸力はこの細い鉄骨の柱で受けることにし[fig.3-04]、このことによってすべてのデザインを決定していこうと考えました。
fig.3-05が完成です。昼間の写真がちょっと見にくいのですが、夜になるとわたしのやりたいことが明快になるのではないかと思います。つまり八女の町がもっている和風というものを、大きな行灯を作るということで提案したいと考えました[fig.3-06]


fig.3-04
fig.3-05
fig.3-06

fig.3-07はエントランスの正面です。奥が体育館で、右に見えるのが増築部分の剣道場です。fig.3-08がエントランス内部で左が体育館、右が剣道場です。

fig.3-07 fig.3-08

もともとはこういう体育館で、梁下までコンクリートでその上に鉄骨が載っていました[fig.3-09]。これをこのようにリファインしました[fig.3-10]。正面の壁面の木の色の濃い部分はじつはリファイン前の床材を再利用しています。全部使いたかったのですが、思ったより状態が悪くて、妻側の両面だけ使いました。前回の《八女市多世代交流館》でコンクリートのガラを敷いたものよりは積極的にこの建物の記憶を残したいと考えました。アングルが違うとこのようになっています[fig.3-11]

fig.3-09 fig.3-10
fig.3-11

fig.3-12が剣道場です。外壁の仕上げは、このように伝統的な香りがするような菱葺きという張り方にしました。fig.3-13は剣道場の入り口です。
ここには通常の窓がありません[fig.3-14]。通風は地窓と上のハイサイドで空気を流すのですが、なぜこういうものを作ったかというと、たとえばここで演劇や音楽会をすると、窓がないので視界が外部から遮断されます。そのことで内部空間の行為に集中できるんです。剣道場というのは利用時間が短く、かなりの時間が空いていますので、そういう利用ができないかと思って作りました。役所の方はその意図はほとんどわからずに、できあがったあとに「窓がありませんね」と言いましたが、説明したら納得してくれました。ただ学校からは使いづらい、そんな音楽会なんかしないと言われてまして、困ったもんだなという感じです(笑)。社会教育の一環でこういう使い方ができるという提案をしてみました。

fig.3-12 fig.3-13
fig.3-14

●八女市での試み「市町村会館」/都市をリファインする
八女市にはしょっちゅう行っていまして、そこの市町村会館には、2階に会議室、小ホール、応接間、喫茶店などがあるのですが、ほとんど使われていません[fig.3-15]。これをリファインしたらどうかと言われまして、いろいろと話を聞いたところ、小ホールが欲しいということでfig.3-16のような提案をしました。小ホールの壁は可動式で、上に上がって開放できます。椅子を地下に入れると、fig.3-16の赤く囲まれた小ホールのエリアがオープンになり、全部ホールになるということを考えました。

fig.3-15・3-16:1階平面図 左=既存/右=リファイン案(左側が小ホール)

fig.3-17が2階の現状です。階段、ロビー、客席とありますが、ロビーを上部吹き抜けのホワイエにしています[fig.3-18]fig.3-19は3階の現状の平面図で、これをfig.3-20のようにできないかと考えています。

fig.3-17・3-18:2階平面図 左=既存/右=リファイン案
fig.3-19・3-20:3階平面図 左=既存/右=リファイン案

fig.3-21はたしが勝手に作って、市長さんに「こんなん作ったらどないでっか」と持って行ったものです。藤原先生は「青木さん、素晴らしい」と言ってくれてますが、時間はかかると思います。いまの市長さんが合併後に市長になったらもしかしたらできるんじゃないかと思っています(笑)。

fig.3-21

fig.3-22
この提案の理由はもう1点あって、この市町村会館ができるとfig.3-22のような軸ができるんです。先ほどの《多世代交流館》《福島中学校》、それから八女の伝統的町並のゾーンがあって、そのなかに市役所、市町村会館がある。もともとこのエリアは伝統的な町並が保存されていまして、民家のレベルではいい状態で残っているのですが、大きい建物つまり公共建築やマンションはまったく町並を無視してつくられているので、この軸をつくることでここに何らかの影響を与えることができないかと思って、ぜひやりたいとお願いをしています。
つまり、いままで都市は結局、新築か保存かという二者択一で、歴史的景観が壊れたり守られてきたんですけど、そこに「リファイン」という手法を挿入すると、ヨーロッパの都市が持つような歴史の重層をこの八女市は持つことができるのではないかと考え提案しています。

●商店街をリファインする
fig.3-23
次は、熊本県本渡市の安田公寛市長から、閉鎖したスーパーマーケット(旧ニチイビル)を買ったがリファインできますかと聞かれて、昨年1年間かけて調査をして提案したものです。
敷地の北側に大きな通りがあって、これが商店街です。西側にもアーケードがかかっている商店街があります。そこに閉鎖したスーパーマーケットがあります[fig.3-23]
fig.3-24
周辺にはfig.3-24のように、市役所の前を国道324号線が通っていて、近くに県道44号線と県道24号線という昔の街道があり、アーケード街のなかに旧ニチイビルがあります。ほっておけばシャッター通りになるような商店街に、なんらかの公共的な空間ができることで活性化できないかと考えました。
fig.3-25は1階の平面図です。外部のようなオープンスペースをつくり、そこに地下から地上4階までの巨大な吹き抜けを作りました。2階は吹き抜けと、会議室など必要な諸室を作り、3階、4階が小ホールというプログラムです。地下は若者が音楽や演劇などに使えるようなスペースを作りました。断面を見ますとこのような空間になります[fig.3-26]
ここは熊本市まで車で2時間かかるので商店街がまあまあ元気なんです。そこにひとつ起爆剤を作ることによって、商店街が生まれ変わるのではないかということで、こういう提案をしました。

fig.3-25:1階平面図 左=既存/右=リファイン案
fig.3-26断面図(リファイン案)

fig.3-27
それからアーケード街には、3階建てや2階建ての建物があるので、1階をテナント、2階を住居にすることによって夜間人口をもっと増やせないかと考えて提案しました。これもリファインでやればそれほどコストをかけずにできるということで、リファインを通じた都市への提案をしています[fig.3-27]
昨年の夏に大分県の蒲江町というわたしの出身地でワークショップを開きました。そのまとめの作業をいまやっていて、ワークショップの記録を収録した本が今年中に発売予定です。そこでいろいろな方と対談をしているのですが、そのなかで本渡市の市長から「都市をリファインしろ」という言葉をいただきまして、こういうことを考えたわけです。
日本の都市というのは、行政によるが計画した道路で形態ができているんですけど、硬い建物と柔らかい建物つまり木造と非木造の調査をすることによって別の都市像が浮かんできて、それをなんらかの手法で再生することによってもう1回コミュニティのある都市ができるのではないかと朧げながら考えています。
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