プロローグレクチャー

●職種の再編成
青木──コストの話をもう少し詳しくすると、多能工とは、左官屋さんに大工の仕事、大工さんに左官の仕事をさせることをわれわれは考えていたんですけど、これは完全にだめなんです。ではどうすればよいかと言うと、溶接なら溶接で組むことです。つまり鉄骨とサッシュと軽鉄は同じ業者、左官工事とINAXさんが持っている設備工事は一緒にでき、電気工事は大工さんが一緒にできるんです。電気工事は絶対大工さんのほうが早い。なぜなら壁仕上げの前に配線が簡単にできます。
いま材料メーカーや設備機器のメーカーとリファイン研究会のなかで、再生に有効な工法の研究をやっていて、最初から壁に配管を仕掛けられないかと思っているんです。そうすると配線は通っていますので、つなぎこみの作業だけになり、現場の作業がものすごく簡単になる。いまはユニットバスならユニットバスというセットだけなので、そうではなく、なにかを組み合わせないと安くならない。壁となにかを一緒にする、あるいはなにかと仕上げを一緒にすると合理化できる。行程がひとつ減れば、工期の短縮になります。
工期の短縮は採算性の面では重要な意味を持ちます。解体工事の時間と、増築の基礎/躯体をつくる時間が同時に成立するわけです。いまはリファインするときに解体をした後に躯体を取って測っています。だけれど、例えば1団地で一挙に10棟300戸をリファインするとなった時に、1住戸ごとに測るのかということです。とても時間的にはロスがでます。それでいろいろ探して、設備機器メーカーの担当者に機械を置いてそのまま測れるかと尋ねたら、仕上げを取って躯体だけなら完璧に測れるんです。しかし仕上げがある状況でコンクリートの躯体を測ってくれと頼んだら、それは無理だと言われました。つまり解体する前に躯体が測れたら、解体と同時にパーツをもって来て仕上げができるんです。これをやるとかなりおもしろいことができるのではないかと思います。これはなかなかうまくいかないのです。
いま進行中の山口県内での現場がかなり大きな規模でして、予算がまったく足りません。そこで、床から2000mmまで仕上げてその上は何もしないということにしているんです。そうするとかなり合理的にこの手法が使えるんです。坪単価は20万くらいしかないんです。しかしこれはひとつの現場の実験としてやってみたいと考え着工しました。

太田──先ほど職種の再編みたいなことをやりたいというお話がありましたが、実際、設備工事と左官を組み合わるということはやられたんですか。

青木──先ほど炭素繊維を耐震補強に巻くという話がありましたが、この業者に「単価いくらですか」と訊いたら、平米単価3万円と言われました。あまりに高いので「金箔を貼るのではないんだから」と言うと、「どうやったらいいんですか」と尋ねられて「お前のとこなにやってんの」と訊いたら、そこはもともと防水工事からスタートして、コンクリートのクラックの修復の仕事を始めて、その後塗装工事、それから炭素繊維をやっているということでした。それで「わかった、全部セットで出す、ずっと俺の仕事はできるだけやらせる」と言ったら、単価が13,000円、半分以下になったんです。そことは許す限りはずっと付き合っているんですが、そこでは塗る作業と貼る作業がひと括りになっているんです。それといまサッシュ屋に鉄骨工事と軽鉄工事もやってほしいと言っていますよ。

太田──手の技術で分類して考えるということですね。

青木──そうです。切断だったら、H鋼は違いますけど、軽鉄もアングルもカットする機械はまったく同じですから一業者でできます。だから設計する段階でそういうことを念頭に置きながら設計するようにするんです。ドアの枠をそのサッシュ屋さんにお願いしてスチールでやりました。いくらになるかと訊いて、返事を見て、「ああしたら1週間が3日でできるはないか、そうしたら安くなる」と話をするんですが、それはものすごくおもしろい。そういうことをしないとコストは下がっていかないですね。まあ、僕は結構思いつきで言っています。うちの所員は大変だと思います。
もうひとつ言いますと、ひと月前に胆石の手術で入院しまして、点滴を打つときに看護婦さんがラベルを見せて名前を言って下さい、と言うんです。「青木茂です」と言うと「間違いありませんね」と言って点滴をするんです。それをしつこいくらい徹底してやる。そうすると手術の前にものすごく安心感があるんです。われわれの建設業界は、そういう安全に対するサービスをやっているのかというと疑問があります。生コンは荷下ろしが終わった段階で生コンメーカーの手を離れるんですが、僕は生コンは打ち込んで脱型をして、その段階でチェックをして初めて製品になると思う。そういう徹底した品質管理をやっていかないと鉄のほうが材料として安定しているので、とって代わられるのではないかという気がします。設備会社も製品を売って後は施工者任せということだと、自動車メーカーが設備に入ってくると完全にとって代わられるのではないかと思います。そういう編成、業種の移り変わりをかなり意識的にやっていかないと生き残れない世界になっていくのではないか。だから僕の事務所でやっているように全部テーブルに上げて議論をしないと信頼度があがらない。それを先にやっておけば市場の信頼を得られるのではないかと思うんです。

太田──お話をうかがっていると、物質の論理を隅々まで時間軸でとらえ、それをどうマネジメントをするかということを話されていて、そこで社会的なロジックが構築されているという気がします。先ほどから新耐震のことをおっしゃっているのは、いままで30年もってきたものを次の30年どう活かすかということで、時間性を技術的な視点でしっかり定位されているように感じました。

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