プロローグレクチャー

●浴槽と洗濯防水パン
太田――素朴な質問をさせていただきます。私も設計をしていて床下200mmの空間をとってバリアフリーの住宅を設計したんですが、200mmもあればだいたい収まるんじゃないかと思っていても、2つ駄目なところがあって、ひとつは浴室ですね。バリアフリー対応のお風呂にするとどうしても排水が駄目で、さらに200mm下げました。それから、別の建物で解けなかったのは洗濯パンでして、下の部屋の天井にぽこっと排水が出てしまった。そうなると洗濯パンはなくてもいいんじゃないかと思うんですけれども、その2つが結構建築の断面に影響を与えているんです。SIを考えると、やはり自由度の高さが重要なので、洗濯のところ、お風呂のところだけ床スラブを下げるとかなりの自由度を確保できるだろうと思っております。その2つの点に関して、安孫子先生のお考えをお聞きしたいのですが。

▲太田浩史氏

安孫子―一番悩ましい質問なんですけども、実はSIをやるときに、床下寸法をどうしようかという議論がありまして、そのときにパイプシャフトからどこまで自由度をもたせるかを検討しました。1/50の勾配ならば、このへんまでしか水まわりは置けない、1/100になると南の窓側までもっていけるという議論になって、そのときに出てきたのが300mm近い床下寸法です。このくらいみて、それで自由度を出そうという議論を最初はしていたんですけれども、できあがってみますと、せっかく階高を3300mmとったのに、設備に300mmもあげるのは言語道断だという話でした。天井高の高さがウリであるから床下をもう少し下げてくれ、という変な話だったんです。ですから、床下寸法をどう取り扱うかは、価値観がいろいろあると思います。空間的価値を優先させれば抑えたいし、設備的には、それだけ上げておけば何でもできるという考え方もできるわけです。ただ設備側から見ても、そんなに上げた床で配管が通っているところは一部分しかなくて、ほかのスペースは無駄だという考え方もありますから、必ずしもこれだけでは決まらないと思います。
もうひとつは、太田さんが言われた浴槽と洗濯防水パンについてです。ここには、床下以前の問題があると思っています。現在の洗濯機のいろいろな排水の機能を見ますと、そんなにパンが必要なのかという議論がひとつある。もう少しよい床のトラップ、例えば差し込むだけでトラップ機能をもっているような商品をつくることによって、パンを引かない排水、つまり器具でそのまま排水できると思います。2つ目は、パンはどちらかというと日本特有の排水方法だと思うのですが、今の風呂のなかのバスタブとパンとの関係は、バスタブからの排水をパンに開放するもので、床下のタッパがないですから、基本的に排水は難しいし、強制排水しても難しい。しかもバリアフリーになるともっと難しい。となると、ひとつの方法として、バスタブからの排水とパンからの排水を分離する考え方を商品化する必要があるのではないかという気がします。バスタブに40〜50センチくらい水が入っていれば、そのヘッドで水が流れていくわけですから、勾配がなくても意外とバスタブの排水は可能になってくる。パンに開放するともうヘッドがなくなってしまいますから、あとは自然と水がひける状態を見ているしかない。そういう意味では、バスタブを単独系統にするのがひとつの手ではないかと思いますが、そういう商品はないんです。先ほど言った器具排水方式のほうがよいというのは、排水管はもう器具に付いていますから、それが流れるようにする仕掛けづくりをするのもひとつの考え方ではないでしょうか、ということです。商品開発がそこまでいっていないということですが、それをやったからといって儲かるかどうか保障はないのですが(笑)。

太田――そういう制度的な問題もあるんですか。

安孫子――制度というと例えば基準の問題などですか。

太田――はい。

安孫子――基準ではないですね。排水は唯一法的な基準がないんです。せいぜいあるのは1/50の勾配などです。その程度の排水の基準で、それには罰則その他がありませんから、基本的には自由にできます。もちろん官庁などの決めた仕様があって、それに合ったものが採用されますから、それから大きくはずれるもので説得するのはなかなか大変ですけれども。

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