プロローグレクチャー

●強制排水の課題
松村――文脈なく3つほど質問があります。ひとつは、僕がKSIみたいなもので気になるのは、これからそういうものをつくろうというその考え方です。例えば、階高の高い、梁形柱形の出ないような立派なスケルトンをつくって、そこに設備を自由にしてもらうとする。ところが、実際そういう設備の技術が開発されて使われるとすると、今まで公団住宅は何を建ててきたのという問題があるわけです。
実際ストックとしてある公団住宅の設備の位置を自由にしようと思うと、やはり強制排水の威力に頼らざるをえない。強制排水が実用化できるようになったら、階高が非常に制限されているストックの利用価値が上がるだろうと思います。僕らは既存の公団住宅で高齢者用のインフィルを開発したのですが、せいぜい床下100mmしかとれなかった。なんとか床下100mmで引き回してしまおうとすると、もう圧送しか手がない。安孫子先生のお話では、強制排水は自然排水とのコンビネーションでのみ使うことを推奨しているということでしたが、この先強制排水だけでいける見通しというか、クリアする課題として何があるのかというのが1つ目の質問です。2つ目は簡単で、アメリカとヨーロッパの違いについてです。今でもアメリカは二管式なのか、ヨーロッパとアメリカで伝統的に違ってきているのには文化的に何か違いがあるのかというのが2つ目の質問です。3つ目はティッシュの話で、総合的なティッシュレベルでの環境、設備、インフラ、サービス産業というものを打ち出されていたのですが、具体的な担い手としてはどのようなタイプの業種や専門家がそのサービス産業の担い手になりうるのかということです。

▲松村秀一氏

安孫子――ストックに対する強制排水に関してですが、おっしゃるとおり、ストックを魅力あるものに切り替えるには、水まわりを大きく動かさないと難しいということがひとつあります。特に都市機構の住宅は階段室型が多くて、入ってすぐ水まわりになっている。そこに配管が露出しているわけですから、そこから逃げ切れない。ということになると、いつまでたってもそこは水まわりです。ただニーズからすれば、介護で南側の明るいところに水まわりをもっていきたいとか、若い人たちが南側のお風呂に入りたいといった場合には、今のシステムでは対応できない。先ほどの強制排水方式はそれを可能にするんです。そのときに、既存のものがひとつ欲しいというのは、排水は非常に保守的な分野なので、「いいですよ、なんでもオーライ」とは言ってきていないし、もしそういうことを言う人がいたとすると、この業界の大御所のなかには「そんなこと言うな、馬鹿者」とおっしゃる方もいらっしゃいます。あまり言って欲しくないんですけれども(笑)。例えばキッチンで使っている椀型トラップというのがありますが、あれを取ってどこかへもっていくとよく失くしてしまうわけです。そのために事故も起きていて、下水のガスが入り込んで爆発したことがあって、だからトラップは動かしてはいけないという大原則をずっと守ってきている。ところが現実には厨房流しのトラップはパカパカはずしていますし、逆にメンテナンスの面からすれば、はずしたほうが掃除しやすいということもある。
排水に関しても、強制排水というのは邪道であるという言い方をされる先生も当然いらっしゃいます。総合的に考えていくと、いきなり強制排水だけですべてやるとは、技術屋としてはなかなか言いにくい。しかし、排水はどのような場合でも流れていくことが非常に重要であるということからすると、自然排水を片方でもっていて、それに対するオプションで強制排水を使うのであれば、今すぐでもどんどん使ってくださいと言えます。
もうひとつは強制排水に対する考え方がまだできていないということがあります。例えば強制排水を使った便器を置いた場合、見た目は全然わからない。そうすると、停電で電気が止まったとき、停電といっても電力会社の停電ならまだいいんですが、ブレーカーが落ちているだけという場合もあります。その場合、容量のあるタンクをもっていますから、1回目は流れるけど、2回目は完全にあふれてしまう。そういうことをきちんと表示しなくてはいけない。これはお風呂でもそうだと思うんですが、例えばお風呂の水を流しながら買い物に出かけないでくださいということも重要です。その間に万が一停電になったら、バスタブからパンにあふれて下の階に水が漏れてしまう。つまり使ううえでの常識が基本的にできていないときに普及させるにはそれなりの慎重さが必要なのですが、だんだんと事例が増えるにしたがってクリアできると思います。
2つ目の質問のアメリカとヨーロッパがなぜ違うか、これは私もよくわかりません。ただアメリカは高層、超高層は早くからやっていますので、通気や排水が大変重要で、ヨーロッパは低層が非常に多くて、低層の場合は意外と通気はなくても済むわけです。特に北欧の場合は伸頂通気を外に出さない。大気に開放せずに屋根のなかに入れる、ドルゴなどの通気弁方式で処理しています。具体的なところはよくわかりませんが、低層と高層の違いがあると思います。

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